ドメスティック・バイオレンス(DV)とは、配偶者や恋人など親密な関係にある、または過去にあった人から振るわれる暴力のことを指します。一般的に男性から女性に対して行われるケースが多いと思われがちですが、女性から男性へのDVや同性カップル間でのDVも存在します。
DVには以下のような種類があります。
2001年に制定されたDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)では、「配偶者からの身体に対する暴力」または「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義されています。この法律における「配偶者」には、事実婚や元配偶者、生活の本拠を共にする交際相手も含まれます。
多くのDV被害者は、自分がDVを受けていることに気づいていない場合があります。これは加害者が暴力を振るう一方で、時に優しく接したり謝罪したりするという「サイクル」を繰り返すためです。自分がDV被害を受けているかどうか判断するには、親族や友人に相談し、客観的な意見を聞くことが重要です。
DVは民法で定められている「法定離婚事由」のうち、「婚姻関係を継続し難い重大な事由」に該当します。つまり、DVを理由に離婚を求める場合、相手が離婚に同意しなくても、裁判を通じて離婚が認められる可能性が高いのです。DVの度合いによっては、一度のDV行為でも離婚が認められるケースもあります。
DVによる離婚手続きの流れは以下の通りです。
まずは自身の安全を確保するために別居することが重要です。必要に応じて保護命令を申し立てることも検討しましょう。
第三者(弁護士など)の同席のもと、話し合いによる離婚を試みます。ただし、DV加害者との直接交渉は危険を伴うことがあるため、弁護士を通じて行うことをお勧めします。
協議離婚が成立しない場合は、家庭裁判所での調停に移ります。調停委員を介して離婚条件について話し合います。
調停が不成立の場合は、離婚裁判を起こします。裁判所がDVの事実を認め、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断すれば、相手の同意がなくても離婚が認められます。
離婚が成立した場合、親権、養育費、財産分与、慰謝料などの条件が決まります。DVの場合は慰謝料が認められることが多く、事例によっては100万円程度の慰謝料が支払われるケースもあります。
DVによる離婚を成立させるためには、DVの事実を証明する証拠が非常に重要です。証拠がない場合、「言った・言わない」の水掛け論になり、離婚が難しくなる可能性があります。
効果的な証拠収集方法には以下のようなものがあります。
証拠を収集する際は、自分の安全を最優先に考えてください。加害者に証拠収集が発覚すると、さらなる暴力を誘発する可能性があります。証拠は加害者の目に触れない安全な場所(クラウドストレージ、信頼できる友人宅など)に保管することをお勧めします。
また、警察に相談して被害届を出すことも、DVの事実を公的に記録する重要な手段です。緊急時には躊躇せず110番通報しましょう。
DV加害者との離婚の話し合いは、被害者にとって精神的にも身体的にも危険を伴うことがあります。以下のポイントに注意して対処しましょう。
DV加害者と話し合う場合は、必ず第三者(弁護士など)が同席する安全な環境で行いましょう。公共の場所や法律事務所など、加害者が暴力を振るいにくい場所を選ぶことが重要です。
可能であれば、弁護士を通じた間接的な交渉を選択しましょう。調停の場合でも、別室での調停(交互面接)を申し出ることができます。
話し合いの場では冷静さを保ち、感情的な対応は避けましょう。加害者を刺激するような言動は危険を招く可能性があります。
親権や養育費など、譲れない条件は事前に明確にしておきましょう。ただし、すべての条件にこだわりすぎると話し合いが難航する可能性があります。
「戻ってくれば許す」「子どもに会わせない」などの脅迫や説得に応じないよう心の準備をしておきましょう。
DV加害者は話し合いの場でも支配的な態度を取ることが多く、あなたの非を責めたり、脅迫したりする可能性があります。そのような場合は、無理に話し合いを続けず、一旦中断することも検討しましょう。
また、加害者が逆上して暴力をふるう可能性がある場合は、すぐに警察に通報してください。あなたの安全が最優先です。
DV家庭では、子どもたちが「ヤングケアラー」として機能してしまうケースがあります。ヤングケアラーとは、本来大人が担うべき家事や家族の世話などを子どもが担ってしまう状況を指します。
DV家庭におけるヤングケアラーの特徴として、以下のような点が挙げられます。
このような環境で育った子どもたちは、心理的なトラウマを抱えることが多く、将来の人間関係にも影響を及ぼす可能性があります。そのため、DV離婚後は子どもたちの心理的ケアも重要な課題となります。
DV被害者自身の心理的回復も非常に重要です。長期間のDVにより自尊心が低下し、PTSDなどの症状が現れることもあります。回復のためには以下のようなステップが有効です。
心理カウンセラーや精神科医などの専門家によるサポートを受けましょう。
同じ経験を持つ人々との交流は、孤独感の軽減や回復の助けになります。
自分を責めるのではなく、自分の価値を再認識する活動を行いましょう。
健全な人間関係を築くことで、対人関係の正常なパターンを学び直すことができます。
DVから脱出し新たな人生を歩み始めた方の中には、アラフィフで離婚した後にマッチングアプリで婚活し、優しいパートナーと再婚して幸せな生活を送っている例もあります。DVからの回復と再生は決して不可能ではありません。
離婚後の子どもとの面会交流については、子どもの福祉を最優先に考えることが重要です。DV加害者であっても、子どもにとっては父親であるという視点も忘れてはなりません。ただし、子どもの安全が確保できる状況であることが前提です。
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)の詳細
法務省人権擁護局によるDV被害者支援情報
全国のDV相談窓口一覧(内閣府男女共同参画局)
ドメスティック・バイオレンスは決して許されるものではなく、被害者には法的に保護を求める権利があります。一人で悩まず、専門家や支援団体に相談することが、安全な未来への第一歩です。DVからの離婚は困難を伴うかもしれませんが、適切なサポートを受けながら進めることで、新たな人生を歩み始めることができます。