国際結婚の増加に伴い、二重国籍を持つ子どもがいる夫婦の離婚も増えています。国際離婚は通常の離婚と比べて複雑な手続きが必要となり、特に子どもが二重国籍を持つ場合は、より慎重な対応が求められます。
国際離婚では、どの国の法律に基づいて離婚を進めるかという「準拠法」の問題が発生します。日本の場合、「法の適用に関する通則法」によって準拠法が決定されます。この法律によれば、離婚の効力については以下の順序で準拠法が決まります。
つまり、日本人と外国人の夫婦で日本に住んでいる場合は、日本の法律に従って離婚手続きを進めることができます。また、二重国籍の子どもがいる場合でも、日本に住んでいれば日本の法律が優先されます。
二重国籍の子どもがいる場合、親権の問題は特に重要です。日本の法律では、離婚時に親権者を一人決める「単独親権制度」を採用していますが、多くの外国では「共同親権制度」を採用しています。この違いが国際離婚において大きな問題となることがあります。
子どもが二重国籍の場合、親権の準拠法は以下のように決まります。
日本の単独親権制度では、離婚時に父母のどちらかが親権者となり、もう一方の親は法的な親としての権利を失います。これに対し、共同親権制度を採用している国では、離婚後も両親が共同で子どもの養育に関する決定権を持ちます。
このような制度の違いから、日本で単独親権が決まっても、相手の国では共同親権が継続していると判断されるケースもあります。そのため、国際離婚では子どもの将来的な教育や居住地について、詳細な取り決めを行うことが重要です。
二重国籍者の離婚では、どの国の法律を適用するかが複雑な問題となります。通則法の38条1項によれば、二重国籍者については、以下のように準拠法が決まります。
例えば、日本とアメリカの二重国籍を持つ人が日本に住んでいる場合、日本法が本国法として適用されます。
実際の離婚手続きにおける準拠法の適用例を表にまとめると以下のようになります。
事例 | 準拠法 |
---|---|
夫:A国籍、妻:日本国籍、夫はA国へ、妻は日本で生活 | 日本法 |
夫:A国籍、妻:A国籍、夫婦ともに日本に居住 | A国法 |
夫:A国籍、妻:B国籍、夫婦ともに日本で生活 | 日本法 |
夫:A国籍、妻:B国籍、夫婦ともに日本で長年同居した後、夫がA国に帰国 | 日本法 |
このように、国際離婚における準拠法は夫婦の国籍や居住地によって異なります。特に二重国籍の場合は、どちらの国籍を優先するかによって適用される法律が変わってくるため、専門家への相談が必要です。
二重国籍の子どもを持つ夫婦が離婚する場合、以下の手続きが必要となります。
多くの国では協議離婚が認められておらず、裁判の判決をもって離婚が成立すると定めています。そのため、日本で協議離婚しても相手国では認められない可能性があり、あえて調停や裁判で離婚を成立させることも検討する必要があります。
また、フィリピンなど離婚そのものを禁止している国の場合は、その国での手続きは不要です。ただし、このような場合でも子どもの親権や養育費については適切な取り決めが必要です。
国際離婚では、離婚後のビザ(在留資格)の問題も重要です。結婚により「日本人の配偶者等」の在留資格を取得していた外国人配偶者は、離婚成立後の更新ができなくなります。
離婚成立後も日本に滞在する場合は、在留資格の変更手続きが必要です。数年間の婚姻実績と安定した収入がある場合や、子どもの親権者として監護養育している場合などは、「定住者」としてのビザを取得できる可能性があります。
在留資格取り消しの対象となるのは、「配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行わないで在留している」場合です。ただし、以下のような「正当な理由」がある場合は例外とされています。
離婚が成立した場合は、14日以内に届け出る必要があります。ビザの問題は離婚協議が進まない原因となることもあるため、早めに情報共有しておくことが重要です。
二重国籍の子どもがいる場合、離婚後の子どもの将来について慎重に考える必要があります。特に以下の点に注意が必要です。
子どもが二重国籍を持つ場合、両親の文化的背景や言語を学ぶ機会を確保することが重要です。離婚後も両親との関係を維持できるよう、具体的な面会交流の計画を立てることが子どもの健全な成長につながります。
また、国際離婚では、「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)」も考慮する必要があります。この条約は、一方の親による子どもの不法な連れ去りや留置を防止し、連れ去られた子どもを常居所地国に迅速に返還することを目的としています。日本も2014年にこの条約に加入しており、国際離婚における子どもの扱いに関する重要な枠組みとなっています。
国際離婚、特に二重国籍の子どもがいる場合の離婚は非常に複雑です。法律の専門家や領事館への相談を早い段階から行い、両国の法律を考慮した上で、子どもの最善の利益を第一に考えた離婚計画を立てることが重要です。
離婚は困難な決断ですが、特に国際結婚の場合は文化的な違いや法律の違いによって更に複雑になります。しかし、適切な情報収集と専門家のサポートを受けることで、二重国籍の子どもの将来を守りながら、円満な解決を目指すことができるでしょう。