贈与税と離婚の財産分与で注意すべき課税関係

離婚時の財産分与は通常贈与税がかからないとされていますが、実際には様々な条件によって課税される場合があります。離婚を考えている方や財産分与を検討中の方は、どのようなケースで贈与税が課税されるのでしょうか?

贈与税と離婚の関係

離婚時の財産分与と贈与税の関係
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原則非課税

離婚による財産分与は通常、夫婦の共有財産の清算として扱われるため、原則として贈与税は課税されません。

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例外的に課税

分与額が不当に多い場合や、課税回避目的の偽装離婚と判断された場合には贈与税が課税されることがあります。

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請求期限

財産分与請求権には離婚後2年の除斥期間があり、期限を過ぎると請求できなくなります。

贈与税が離婚時の財産分与に課税されない理由

離婚時の財産分与に対して、通常は贈与税が課税されません。これは、財産分与が「贈与」ではなく、婚姻中に夫婦が協力して築き上げた財産の「清算」という性質を持つためです。

 

財産分与請求権には主に以下の3つの性質があります。

  1. 婚姻中の財産の清算: 夫婦が協力して蓄積・維持してきた財産の分配
  2. 離婚後の生活保障: 離婚後の生活を支えるための経済的支援
  3. 慰謝料的要素: 離婚に至った経緯によっては慰謝料的な意味合いを含む場合もある

これらの性質から、財産分与は単なる「贈与」ではなく、法的な権利に基づく財産の分配と考えられています。そのため、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づく給付と解釈されるのです。

 

贈与税が課税される離婚の財産分与のケース

原則として贈与税がかからない離婚時の財産分与ですが、例外的に贈与税が課税されるケースが存在します。主に以下の2つの場合です。

  1. 分与された財産が不当に多い場合
    • 婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多すぎると判断された場合
    • この場合、多すぎると判断された部分についてのみ贈与税が課税されます
  2. 偽装離婚と認められる場合
    • 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと税務署に判断された場合
    • この場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります

特に富裕層や資産家の場合、財産分与の金額が高額になることがありますが、それだけで自動的に贈与税が課税されるわけではありません。あくまで「不当に多い」と判断されるかどうかが重要です。

 

ただし、「不当に多い」という判断基準は明確に定められておらず、個々のケースによって税務署の判断が異なる可能性があります。そのため、高額な財産分与を行う場合は、事前に税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

 

贈与税と離婚の財産分与における不動産の取り扱い

離婚時の財産分与で不動産を渡す場合、贈与税以外にも注意すべき税金があります。特に重要なのが「譲渡所得税」です。

 

財産分与として不動産を渡す側(分与する側)は、その不動産を時価で売却したものとみなされ、譲渡所得税が課税される可能性があります。具体的には以下のような流れになります。

  1. 不動産を財産分与として渡す場合、その時点での時価で売却したとみなされる
  2. 取得費(購入時の価格や改良費など)と時価との差額に対して譲渡所得税が課税される
  3. 譲渡所得の計算方法:時価 - (取得費 + 譲渡費用) = 譲渡所得

例えば、2,000万円で購入した不動産が、財産分与時に3,000万円の価値になっていた場合、差額の1,000万円が譲渡所得となり、これに対して税金がかかります。

 

一方、財産分与として不動産を受け取る側は、受け取った時点での時価が将来売却する際の取得費となります。そのため、将来売却する際には、財産分与時の時価と売却時の価格との差額に対して譲渡所得税が課税されます。

 

なお、居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除などの特例は、正式に離婚が成立してから適用されるため、タイミングに注意が必要です。

 

贈与税の配偶者控除と離婚後の財産分与の比較

婚姻期間が20年以上の夫婦の場合、贈与税の配偶者控除を利用することで、最大2,000万円まで贈与税が非課税となる制度があります。離婚を検討している場合、この配偶者控除を利用するか、離婚後の財産分与を選ぶかで税金面での違いが生じます。

 

贈与税の配偶者控除の主な要件:

  • 婚姻期間が20年以上であること
  • 居住用不動産または居住用不動産を購入するための資金の贈与であること
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその居住用不動産に居住し、その後も居住し続ける見込みであること
  • 贈与税の申告をすること
  • 過去にこの控除を利用していないこと

配偶者控除と財産分与の比較:

項目 贈与税の配偶者控除 離婚後の財産分与
適用条件 婚姻期間20年以上など 離婚が成立していること
非課税額 最大2,000万円 原則として全額(不当に多い部分を除く)
対象財産 居住用不動産または資金のみ 婚姻中に協力して得た財産全般
申告義務 贈与税の申告が必要 原則として不要

重要なポイントとして、贈与税の配偶者控除を利用した後に離婚したとしても、贈与財産を返還する必要はなく、後から贈与税が課税されることもありません。つまり、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、離婚前に配偶者控除を利用して居住用不動産を贈与し、その後離婚するという選択肢も考えられます。

 

ただし、このような行為が明らかに税金逃れを目的としていると判断された場合は、税務調査の対象となる可能性があるため注意が必要です。

 

贈与税と離婚における財産分与請求権の期限と注意点

離婚時の財産分与には時間的な制限があります。民法では、財産分与請求権の行使期限として「離婚後2年」の除斥期間が定められています。この期間を過ぎると、財産分与を請求する権利が消滅してしまうため、注意が必要です。

 

財産分与請求権の除斥期間に関する注意点:

  • 離婚成立日から2年以内に請求しなければならない
  • 裁判所への申立てだけでなく、当事者間の協議も2年以内に開始する必要がある
  • 期限を過ぎると、たとえ正当な理由があっても請求できなくなる
  • 離婚協議中に財産分与について合意していない場合は特に注意が必要

また、財産分与の対象となる財産についても理解しておくべき点があります。

  1. 対象となる財産:婚姻中に夫婦が協力して形成した財産(共有財産)
  2. 対象とならない財産
    • 婚姻前から所有していた財産
    • 婚姻中でも相続や贈与によって個人的に取得した財産
    • 別居後に各自が取得した財産

ただし、実際の財産分与では、これらの原則に加えて個々の事情も考慮されます。例えば、長期間の婚姻関係があった場合や、一方が家事・育児に専念していた場合などは、財産形成への貢献度が考慮されることがあります。

 

財産分与の割合については法律で明確に定められていませんが、一般的には夫婦の共有財産を2分の1ずつ分けるという考え方が基本となります。ただし、婚姻期間や各自の貢献度、今後の生活への影響などを考慮して調整されることが多いです。

 

贈与税と離婚時の財産分与における専門家への相談の重要性

離婚時の財産分与と贈与税の問題は複雑であり、誤った判断をすると予期せぬ税金が課せられたり、将来的なトラブルの原因となったりする可能性があります。そのため、以下のような場合には専門家への相談が特に重要です。

  1. 高額な財産分与を行う場合
    • 不動産や株式など高額な資産を分与する場合
    • 事業用資産や複数の不動産など複雑な資産構成がある場合
  2. 特殊な状況がある場合
    • 婚姻期間が短い(数年程度)にもかかわらず高額な財産分与を行う場合
    • 別居期間が長く、その間に取得した財産の取扱いが問題となる場合
    • 国際結婚で外国に資産がある場合
  3. 将来的な税金対策を考える場合
    • 財産分与後の譲渡所得税の最小化を図りたい場合
    • 配偶者控除と財産分与を組み合わせた節税策を検討したい場合

専門家に相談する際は、税理士と弁護士の両方に相談することをお勧めします。税理士は税金面でのアドバイスを、弁護士は法律面でのアドバイスを提供してくれます。特に以下の点について専門的な助言を得ることが重要です。

  • 財産分与の適正な金額と方法
  • 贈与税が課税されるリスクの評価
  • 不動産や株式などの特定資産を分与する際の税務上の注意点
  • 財産分与契約書の作成と内容の確認
  • 将来的な税金リスクの回避策

専門家への相談費用はかかりますが、将来的な税金リスクや法的トラブルを回避するための投資と考えれば、十分に価値のある支出といえるでしょう。

 

国税庁の公式サイトで離婚時の財産分与と贈与税の関係について詳しく解説されています
離婚時の財産分与は、感情的な問題と経済的な問題が複雑に絡み合う難しい問題です。特に税金面での知識不足は、将来的な経済的負担につながる可能性があります。冷静な判断と専門家の助言を得ながら、適切な財産分与を行うことが重要です。