婚姻が有効に成立するためには、民法742条に基づき「婚姻の届出」と「婚姻意思」という2つの要件が必要です。これらの要件のいずれかが欠けると、婚姻は無効となります。
婚姻意思とは、単なる形式的な届出の意思ではなく、「社会通念上、夫婦と認められる生活共同体の創設を真に欲する意思」を指します。最高裁判所の判例(最判昭和44年10月31日)でもこの解釈が示されています。
婚姻意思が欠けるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
また、意思能力を欠く状態で婚姻届が提出された場合も無効となる可能性があります。例えば、認知症などにより十分な判断能力がない状態での婚姻は、婚姻意思の有無が争点となることがあります。
ただし、東京高裁令和3年11月20日の判決では、認知症と診断されていた人の婚姻について、「婚姻は身分法上の行為であり、法律行為と異なりその法的効果を理解する能力は求められておらず、社会通念上夫婦としての関係を創設することを理解しうる能力があれば足りる」として、婚姻無効の請求を棄却した事例もあります。
婚姻無効を主張する場合、まずは家庭裁判所に「婚姻無効確認調停」を申し立てる必要があります。これは「調停前置主義」と呼ばれるもので、いきなり裁判を起こすことはできません。
調停の申立ては以下の手順で行います。
調停では、調停委員が双方から事情を聴取し、合意形成を目指します。当事者間で合意が成立した場合でも、婚姻無効は当事者の合意だけでは確定しません。家庭裁判所が「合意に相当する審判」を行い、それが確定することで婚姻無効が確定します。
この審判が確定した後、申立人は1ヶ月以内に戸籍の訂正を申請する必要があります。
調停が不成立となった場合、次のステップとして「婚姻無効確認の訴え」を家庭裁判所に提起することになります。この訴訟では、婚姻意思の不存在を主張・立証する必要があります。
訴訟の主な流れは以下の通りです。
婚姻意思については、判例上「法律的意思説」が採用されており、離婚の法律効果を受け入れる意思があったかどうかが判断基準となります。
例えば、最高裁判所昭和57年3月26日の判決では、生活保護受給のために形式的に離婚届を提出したケースについて、「法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたもの」として離婚を有効と判断しています。
婚姻無効確認の判決が確定した後は、判決確定日から1ヶ月以内に戸籍の訂正を申請しなければなりません。
婚姻の無効と離婚の取消しは、似ているようで異なる法的概念です。両者の主な違いは以下の通りです。
項目 | 婚姻の無効 | 離婚の取消し |
---|---|---|
法的効果 | 婚姻が最初から存在しなかったことになる | 有効だった離婚が遡って無効になる |
想定される場面 | 婚姻意思の不存在(無断提出、偽装結婚など) | 詐欺や脅迫による離婚意思の形成 |
時効 | なし | 詐欺・脅迫を知った日から3ヶ月以内 |
戸籍訂正の申請期限 | 判決確定日から1ヶ月以内 | 判決確定日から10日以内 |
婚姻が無効となった場合の法的効果
浮気問題と婚姻の無効は、一見すると関連性が薄いように思えますが、実際には重要な接点があります。浮気が発覚した際の対応策として、婚姻無効という選択肢を検討する場合もあるためです。
浮気と婚姻無効の関連性について考えるポイントは以下の通りです。
浮気問題に直面した際の実践的な対処法
婚姻無効の主張は、通常の浮気ケースでは認められにくいため、多くの場合は離婚手続きを検討することになります。ただし、婚姻の成立時点での事情によっては、婚姻無効という選択肢も視野に入れることが有効な場合もあります。
浮気問題に直面した際は、まず専門家に相談し、自分のケースに最適な法的対応を検討することをおすすめします。
婚姻が無効と確認された後は、戸籍の訂正手続きが必要になります。この手続きは非常に重要で、期限内に行わなければならないため注意が必要です。
戸籍訂正の手続き。
婚姻無効確認後の再婚への影響については、以下のポイントに注意が必要です。
婚姻無効確認後に再婚を考える場合は、法的な複雑さを避けるため、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。特に子どもがいる場合や財産関係が複雑な場合は、弁護士に相談することで、将来的なトラブルを防ぐことができます。