発達障害を持つパートナーとの離婚率は、一般的な夫婦の離婚率と比較して著しく高いことが分かっています。アメリカのデータによれば、夫婦のどちらか、または一方が発達障害の場合の離婚率は、そうでない場合の2倍から3倍にも上るとされています。これは日本においても同様の傾向があると考えられています。
特に注目すべき点として、アメリカでは発達障害を持つ配偶者との離婚を考えた夫婦は全体の約7割にも達するというデータもあります。この高い数字の背景には、日常生活におけるコミュニケーションの困難さが大きく影響しています。
発達障害の種類によっても状況は異なりますが、自閉症スペクトラム症(ASD)やアスペルガー症候群、注意欠如多動症(ADHD)などの特性を持つパートナーとの生活では、相互理解の難しさが大きな壁となることが少なくありません。
発達障害を持つパートナーとのコミュニケーションにおける最大の課題は、お互いの考え方や感じ方の違いを理解し合うことの難しさです。特に自閉症スペクトラム症(ASD)やアスペルガー症候群の特性を持つ配偶者の場合、以下のようなコミュニケーション上の問題が生じやすくなります。
これらの特性により、夫婦間で「話が噛み合わない」「気持ちが伝わらない」といった状況が繰り返され、徐々に関係性が悪化していくケースが少なくありません。
例えば、感情的になって話をしても理解してもらえなかったり、何度同じことを伝えても行動が変わらなかったりすることで、非発達障害側のパートナーがフラストレーションを抱えてしまうことがあります。
発達障害のあるパートナーとの関係に悩み、離婚を考える前に試してみるべき対処法がいくつかあります。これらのアプローチは、関係改善の可能性を探るために重要なステップとなります。
1. 発達障害についての理解を深める
パートナーの行動や反応の背景にある発達障害の特性を理解することが第一歩です。書籍やウェブサイト、専門家のセミナーなどを通じて知識を得ることで、「わざとそうしている」のではなく「そういう特性がある」という視点を持つことができます。
2. コミュニケーション方法の工夫
発達障害の特性に合わせたコミュニケーション方法を試みましょう。
3. 専門家への相談
個人での対応に限界を感じたら、以下のような専門家に相談することを検討しましょう。
専門家は客観的な立場から状況を評価し、具体的な対応策を提案してくれます。また、パートナー本人が未診断の場合は、適切な診断と支援につなげる手助けもしてくれるでしょう。
4. 当事者会や家族会への参加
同じような状況にある人々との交流は、孤独感の軽減や具体的な対処法の共有につながります。全国各地に発達障害当事者の家族会があり、情報交換や精神的なサポートを得ることができます。
発達障害情報・支援センター:全国の支援機関や相談窓口が紹介されています
発達障害のある配偶者との離婚を決意した場合、通常の離婚手続きと同様のプロセスを踏むことになりますが、いくつか特有の注意点があります。
協議離婚の難しさと対応策
発達障害の特性により、離婚の話し合いがスムーズに進まないケースが多く見られます。特に以下のような困難が生じやすいです。
このような場合の対応策として。
法的手続きの選択肢
協議離婚が難しい場合は、以下の法的手続きを検討することになります。
財産分与や養育費について
発達障害のある配偶者との離婚では、以下の点に特に注意が必要です。
これらの問題については、弁護士や社会福祉士などの専門家に相談することをお勧めします。特に発達障害に理解のある弁護士を選ぶことで、スムーズな解決が期待できます。
発達障害のあるパートナーとの離婚後、多くの人が心理的な回復期間を必要とします。特に「カサンドラ症候群」と呼ばれる状態に陥っていた場合、離婚後も心の傷が残ることがあります。
カサンドラ症候群とは
カサンドラ症候群とは、発達障害(特に自閉スペクトラム症やアスペルガー症候群)の特性を持つパートナーと生活する中で、非発達障害側のパートナーが経験する心理的・身体的症状の総称です。名前の由来は、ギリシャ神話に登場する「真実を語っても誰にも信じてもらえない」カサンドラという女性からきています。
主な症状には以下のようなものがあります。
これらの症状は、パートナーとのコミュニケーションの困難さや理解されない苦しみから生じることが多く、離婚後もしばらく続くことがあります。
離婚後の心のケア
心理カウンセラーやセラピストに相談し、トラウマや喪失感を癒す時間を持ちましょう。認知行動療法やマインドフルネスなどのアプローチが効果的な場合があります。
長期間にわたる理解されない関係性の中で損なわれた自己肯定感を取り戻すことが重要です。自分の感覚や感情を信頼し、自分を責めないよう意識しましょう。
同じような経験をした人々との交流は大きな支えになります。オンラインや対面でのサポートグループに参加することで、孤独感が軽減され、実践的なアドバイスも得られます。
自分のペースで生活できる喜びを再発見し、自分自身のニーズや興味に基づいた生活リズムを作りましょう。
子どもへのサポート
発達障害のあるパートナーとの間に子どもがいる場合、子どもへの適切なサポートも重要です。
離婚後の回復には個人差がありますが、多くの人が時間とともに新たな人生のステージに進むことができています。自分のペースを大切にし、必要なサポートを受けながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
発達障害のあるパートナーとの関係に悩む方々にとって、実際の体験談から学ぶことは大きな参考になります。ここでは、離婚に至ったケースと関係修復に成功したケースの両方を紹介し、そこから得られる教訓を考えてみましょう。
離婚に至ったケース:アゴ山さんの体験
SNSで自身の経験を漫画で発信しているアゴ山さんは、アスペルガー症候群の夫との離婚を決意するまでの道のりを公開しています。彼女の場合、以下のような経験がありました。
アゴ山さんは「夫婦はずっと"戦友"だと考えています。そのためにも『お互いを認め、歩み寄る』ということが一番大事」と語っています。しかし、一方通行のコミュニケーションではその理想を実現できなかったと振り返っています。
関係修復に成功したケース
一方で、発達障害の特性を理解し、適切な対応方法を学ぶことで関係を改善できたケースもあります。
関係修復のためのポイント
これらの体験談から学べる関係修復のポイントは以下の通りです。
発達障害のあるパートナーとの関係は、通常の夫婦関係以上に工夫と忍耐が必要になることがあります。しかし、適切な理解と対応によって、お互いの違いを認め合い、尊重し合える関係を築くことも可能です。
ただし、すべてのケースで関係修復が可能というわけではありません。自分自身の心身の健康が著しく損なわれている場合は、離婚も一つの選択肢として考える必要があるでしょう。最終的には、自分自身と家族全体の幸せを第一に考え、決断することが大切です。