配偶者の浪費癖が原因で離婚を考える方は少なくありません。しかし、単に「相手が浪費家である」というだけでは、法律上の離婚理由として認められない可能性が高いのです。
民法では、裁判によって離婚できるケースを5つ定めています。
浪費癖は上記の1〜4には該当しないため、5番目の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかどうかが問題となります。
浪費癖が離婚理由として認められるためには、以下のような状況に至っていることが必要です。
つまり、「相手の浪費や借金によって家計が破綻させられたか」が重要な判断基準となります。家族の生活基盤を脅かすレベルの浪費であれば、離婚理由として認められる可能性が高まります。
裁判で離婚が認められるかどうかは別として、配偶者が同意すれば「協議離婚」や「調停離婚」という方法で離婚することは可能です。実際、日本の離婚の9割以上は協議離婚です。
協議離婚の場合、法律上の離婚原因の有無は問題になりません。相手の浪費癖に我慢できないという理由でも、相手が納得すれば離婚できます。
浪費癖のある配偶者と協議離婚を進める際のポイントは以下の通りです。
浪費の問題を感情的に責めるのではなく、家計の現状と将来の見通しを具体的な数字で示しながら話し合いましょう。
話し合いがうまくいかない場合は、カウンセラーや弁護士など第三者の介入を検討してください。
財産分与、慰謝料、子どもがいる場合は親権や養育費など、離婚条件を明確にしておきましょう。
合意した内容は公正証書にしておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。特に分割払いの慰謝料などを約束する場合は重要です。
相手が協議離婚に応じない場合は、家庭裁判所での調停を申し立てることになります。調停でも合意に至らなければ、裁判(訴訟)へと進むことになるでしょう。
通常、離婚時の財産分与は「夫婦が婚姻中に協力して築いた財産」を対象に、原則として2分の1ずつ分けることが基本となります。しかし、一方の浪費によって本来あるはずだった財産が失われている場合、この原則通りにはいかないケースがあります。
浪費癖がある配偶者との財産分与で考慮すべきポイント。
浪費によって失われた金額を可能な限り算出し、それを財産分与の計算に反映させることを検討します。例えば、配偶者がギャンブルで失った金額が明確であれば、その分を配偶者の取り分から差し引くという主張が可能です。
浪費癖のある配偶者が財産を隠している可能性もあります。預金通帳や給与明細、クレジットカードの利用明細などを確認し、必要に応じて弁護士に相談しましょう。
婚姻前から所有していた財産や相続で得た財産は「特有財産」として分与の対象外となります。これらを明確に区別しておくことが重要です。
浪費癖のある配偶者が安定した収入を得ている場合、財産分与とは別に慰謝料や養育費として将来の収入から支払いを受ける方法も検討できます。
財産分与の交渉は複雑になりがちなので、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。特に浪費癖のある配偶者との交渉は感情的になりやすく、冷静な判断が難しくなることがあります。
配偶者の浪費が原因で離婚する場合、慰謝料を請求できるのでしょうか?結論から言えば、浪費の程度によって異なります。
慰謝料が認められる可能性がある場合。
実際の裁判例では、妻がパチンコにはまって消費者金融からお金を借り、夫の財布や口座からお金を抜き出して夫婦関係を破綻させた事例において、妻に100万円の慰謝料支払いを命じた例があります(東京地裁平成22年5月19日)。
一方、慰謝料が認められにくい場合。
協議離婚や調停離婚の場合、相手が自ら慰謝料を支払うことに合意すれば、法律上慰謝料が発生するかどうかにかかわらず支払いを受けることができます。
ただし、浪費家の配偶者からの慰謝料回収には注意が必要です。そもそも浪費家は「お金がない」状態であることが多く、約束しても支払われない可能性があります。
慰謝料回収のための対策。
浪費癖のある配偶者との離婚は、子どもにとってプラスの影響とマイナスの影響の両方をもたらす可能性があります。
マイナスの影響:
プラスの影響:
子どもへの影響を最小限に抑えるための対策。
年齢に応じた言葉で、離婚の理由を適切に説明しましょう。浪費癖のある親を一方的に悪者にするのではなく、「お金の使い方の考え方が違う」など、中立的な表現を心がけます。
子どもにとって最善の環境を考え、親権を決定します。浪費癖があるからといって、必ずしも親権者として不適格というわけではありません。子どもと非監護親との関係も大切にしましょう。
浪費癖のある配偶者からの養育費の支払いが滞らないよう、公正証書の作成や養育費保証会社の利用を検討しましょう。
浪費癖のある親を見て育った子どもは、適切な金銭感覚を身につけられない可能性があります。健全なお金の使い方や貯蓄の大切さを教えることが重要です。
親の離婚は子どもにとって大きな環境変化ですが、適切な対応によって子どもの健全な成長をサポートすることができます。子どもの気持ちに寄り添い、必要に応じて専門家(カウンセラーなど)のサポートを受けることも検討しましょう。
離婚を検討する前に、配偶者の浪費癖や借金問題の根本解決を試みることも重要です。浪費癖には様々な原因があり、適切なアプローチで改善できる可能性もあります。
浪費癖の主な原因:
解決に向けたアプローチ:
家計の「見える化」を行い、収入と支出を明確にして、二人で課題を共有します。将来のライフプランを作成し、いつ、どの時点で、どれくらいのお金が必要かを具体的に示すことで、浪費の問題点を認識しやすくなります。
ファイナンシャルプランナーに相談して家計の見直しを行ったり、依存症が疑われる場合は精神科医やカウンセラーに相談したりすることも有効です。
目的別に口座を分け、浪費しやすい配偶者が自由に使えるお金を限定する仕組みを作ります。例えば、生活費・貯蓄・教育費・娯楽費など、目的別に口座を分けて管理する方法があります。
お互いの価値観や考え方を尊重しながら、定期的に家計について話し合う機会を設けましょう。非難や批判ではなく、共通の目標に向かって協力する姿勢が大切です。
すでに多額の借金がある場合は、弁護士や司法書士に相談して債務整理を検討することも一つの選択肢です。
金融庁による多重債務問題解決のための相談窓口情報
浪費癖や借金問題は一朝一夕に解決するものではありませんが、根本的な原因に向き合い、適切なサポートを受けることで改善できる可能性があります。離婚を決断する前に、これらの取り組みを検討してみることをお勧めします。
ただし、相手が問題を認識せず改善の意思がない場合や、浪費や借金が家族の生活を著しく脅かしている場合は、自分と子どもの生活を守るために離婚を検討することも必要です。その際は、法律の専門家に相談して適切な手続きを進めることが重要です。