浪費癖で離婚を考える夫婦の慰謝料と財産分与

配偶者の浪費癖に悩み、離婚を検討している方へ向けた記事です。浪費が離婚原因として認められる条件や、財産分与・慰謝料請求の可能性について解説します。あなたの状況では、法的に離婚は可能なのでしょうか?

浪費癖と離婚の関係性

浪費癖が離婚原因になるケース
💸
家計破綻

浪費によって家計が破綻し、生活が維持できなくなった場合

🏦
借金の蓄積

浪費のための借金が積み重なり、返済の見込みがない状態

⚖️
法的根拠

民法770条1項5号「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性

浪費癖が離婚原因として認められる条件

配偶者の浪費癖が原因で離婚を考える方は少なくありません。しかし、単に「相手が浪費家である」というだけでは、法律上の離婚理由として認められない可能性が高いのです。

 

民法では、裁判によって離婚できるケースを5つ定めています。

  • 不貞行為
  • 悪意の遺棄
  • 3年以上の生死不明
  • 回復しがたい精神病
  • その他婚姻を継続し難い重大な事由

浪費癖は上記の1〜4には該当しないため、5番目の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかどうかが問題となります。

 

浪費癖が離婚理由として認められるためには、以下のような状況に至っていることが必要です。

  • 配偶者がパチンコなどのギャンブルに熱中し、生活費を使い込んで家族の生活が維持できなくなっている
  • 浪費のために消費者金融で借金をし、返済のために生活費が使われて家計が破綻している
  • 給料を管理している配偶者が浪費により生活費を渡さない
  • 配偶者が勝手に財布や口座からお金を抜き取り、家族の生活費が確保できない

つまり、「相手の浪費や借金によって家計が破綻させられたか」が重要な判断基準となります。家族の生活基盤を脅かすレベルの浪費であれば、離婚理由として認められる可能性が高まります。

 

浪費癖のある配偶者との協議離婚の進め方

裁判で離婚が認められるかどうかは別として、配偶者が同意すれば「協議離婚」や「調停離婚」という方法で離婚することは可能です。実際、日本の離婚の9割以上は協議離婚です。

 

協議離婚の場合、法律上の離婚原因の有無は問題になりません。相手の浪費癖に我慢できないという理由でも、相手が納得すれば離婚できます。

 

浪費癖のある配偶者と協議離婚を進める際のポイントは以下の通りです。

  1. 冷静な話し合いの場を設ける

    浪費の問題を感情的に責めるのではなく、家計の現状と将来の見通しを具体的な数字で示しながら話し合いましょう。

     

  2. 第三者の介入を検討する

    話し合いがうまくいかない場合は、カウンセラーや弁護士など第三者の介入を検討してください。

     

  3. 離婚条件を明確にする

    財産分与慰謝料、子どもがいる場合は親権養育費など、離婚条件を明確にしておきましょう。

     

  4. 公正証書の作成

    合意した内容は公正証書にしておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。特に分割払いの慰謝料などを約束する場合は重要です。

     

相手が協議離婚に応じない場合は、家庭裁判所での調停を申し立てることになります。調停でも合意に至らなければ、裁判(訴訟)へと進むことになるでしょう。

 

浪費癖による離婚と財産分与の関係

通常、離婚時の財産分与は「夫婦が婚姻中に協力して築いた財産」を対象に、原則として2分の1ずつ分けることが基本となります。しかし、一方の浪費によって本来あるはずだった財産が失われている場合、この原則通りにはいかないケースがあります。

 

浪費癖がある配偶者との財産分与で考慮すべきポイント。

  1. 浪費による損失の算定

    浪費によって失われた金額を可能な限り算出し、それを財産分与の計算に反映させることを検討します。例えば、配偶者がギャンブルで失った金額が明確であれば、その分を配偶者の取り分から差し引くという主張が可能です。

     

  2. 隠し財産の調査

    浪費癖のある配偶者が財産を隠している可能性もあります。預金通帳や給与明細、クレジットカードの利用明細などを確認し、必要に応じて弁護士に相談しましょう。

     

  3. 特有財産と共有財産の区別

    婚姻前から所有していた財産や相続で得た財産は「特有財産」として分与の対象外となります。これらを明確に区別しておくことが重要です。

     

  4. 将来の収入に対する考慮

    浪費癖のある配偶者が安定した収入を得ている場合、財産分与とは別に慰謝料や養育費として将来の収入から支払いを受ける方法も検討できます。

     

財産分与の交渉は複雑になりがちなので、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。特に浪費癖のある配偶者との交渉は感情的になりやすく、冷静な判断が難しくなることがあります。

 

浪費癖を理由とした離婚での慰謝料請求の可能性

配偶者の浪費が原因で離婚する場合、慰謝料を請求できるのでしょうか?結論から言えば、浪費の程度によって異なります。

 

慰謝料が認められる可能性がある場合。

  • 浪費が家計を破綻させるほど深刻で、裁判上の離婚理由として認められるケース
  • 浪費に加えて、不貞行為やDVなど他の離婚原因が存在するケース

実際の裁判例では、妻がパチンコにはまって消費者金融からお金を借り、夫の財布や口座からお金を抜き出して夫婦関係を破綻させた事例において、妻に100万円の慰謝料支払いを命じた例があります(東京地裁平成22年5月19日)。

 

一方、慰謝料が認められにくい場合。

  • 浪費はあるものの、家計が破綻するほどではないケース
  • 浪費家の配偶者がきちんと家にお金を入れ、夫婦の生活が成り立っているケース

協議離婚や調停離婚の場合、相手が自ら慰謝料を支払うことに合意すれば、法律上慰謝料が発生するかどうかにかかわらず支払いを受けることができます。

 

ただし、浪費家の配偶者からの慰謝料回収には注意が必要です。そもそも浪費家は「お金がない」状態であることが多く、約束しても支払われない可能性があります。

 

慰謝料回収のための対策。

  1. 夫婦に預貯金や社内積立、車や生命保険などの財産があれば、慰謝料に代わる財産分与として受け取る
  2. 相手が安定した職業に就いている場合は、分割払いで慰謝料を支払う約束をして「離婚公正証書」を作成する(支払いが滞った場合に給料差し押さえが可能)

浪費癖による離婚が子どもに与える影響と対策

浪費癖のある配偶者との離婚は、子どもにとってプラスの影響とマイナスの影響の両方をもたらす可能性があります。

 

マイナスの影響:

  • 両親の離婚により、子どもが情緒不安定になったり、攻撃的になったりする可能性
  • 結婚や恋愛に対してネガティブな印象を持つ可能性
  • 片親家庭になることによる生活環境の変化

プラスの影響:

  • 配偶者の浪費や借金に悩まされることがなくなり、子どもの教育費や生活費に適切にお金を回せるようになる
  • 家庭内の緊張状態から解放され、精神的に安定した環境で育つことができる

子どもへの影響を最小限に抑えるための対策。

  1. 子どもに適切な説明をする

    年齢に応じた言葉で、離婚の理由を適切に説明しましょう。浪費癖のある親を一方的に悪者にするのではなく、「お金の使い方の考え方が違う」など、中立的な表現を心がけます。

     

  2. 親権と面会交流を適切に設定する

    子どもにとって最善の環境を考え、親権を決定します。浪費癖があるからといって、必ずしも親権者として不適格というわけではありません。子どもと非監護親との関係も大切にしましょう。

     

  3. 養育費の確保

    浪費癖のある配偶者からの養育費の支払いが滞らないよう、公正証書の作成や養育費保証会社の利用を検討しましょう。

     

  4. 子どもの金銭教育

    浪費癖のある親を見て育った子どもは、適切な金銭感覚を身につけられない可能性があります。健全なお金の使い方や貯蓄の大切さを教えることが重要です。

     

親の離婚は子どもにとって大きな環境変化ですが、適切な対応によって子どもの健全な成長をサポートすることができます。子どもの気持ちに寄り添い、必要に応じて専門家(カウンセラーなど)のサポートを受けることも検討しましょう。

 

ひとり親家庭への支援制度についての厚生労働省の情報

浪費癖と借金問題の根本解決に向けた取り組み

離婚を検討する前に、配偶者の浪費癖や借金問題の根本解決を試みることも重要です。浪費癖には様々な原因があり、適切なアプローチで改善できる可能性もあります。

 

浪費癖の主な原因:

  • ストレスや不満のはけ口としての買い物依存
  • 自己肯定感の低さを補うための消費行動
  • ギャンブル依存症などの精神疾患
  • 金銭管理能力の不足や金銭教育の欠如
  • 収入と支出のバランス感覚の欠如

解決に向けたアプローチ:

  1. 夫婦でのお金の管理方法の見直し

    家計の「見える化」を行い、収入と支出を明確にして、二人で課題を共有します。将来のライフプランを作成し、いつ、どの時点で、どれくらいのお金が必要かを具体的に示すことで、浪費の問題点を認識しやすくなります。

     

  2. 専門家への相談

    ファイナンシャルプランナーに相談して家計の見直しを行ったり、依存症が疑われる場合は精神科医やカウンセラーに相談したりすることも有効です。

     

  3. 家計管理の仕組み作り

    目的別に口座を分け、浪費しやすい配偶者が自由に使えるお金を限定する仕組みを作ります。例えば、生活費・貯蓄・教育費・娯楽費など、目的別に口座を分けて管理する方法があります。

     

  4. コミュニケーションの改善

    お互いの価値観や考え方を尊重しながら、定期的に家計について話し合う機会を設けましょう。非難や批判ではなく、共通の目標に向かって協力する姿勢が大切です。

     

  5. 債務整理の検討

    すでに多額の借金がある場合は、弁護士や司法書士に相談して債務整理を検討することも一つの選択肢です。

     

金融庁による多重債務問題解決のための相談窓口情報
浪費癖や借金問題は一朝一夕に解決するものではありませんが、根本的な原因に向き合い、適切なサポートを受けることで改善できる可能性があります。離婚を決断する前に、これらの取り組みを検討してみることをお勧めします。

 

ただし、相手が問題を認識せず改善の意思がない場合や、浪費や借金が家族の生活を著しく脅かしている場合は、自分と子どもの生活を守るために離婚を検討することも必要です。その際は、法律の専門家に相談して適切な手続きを進めることが重要です。