共働き夫婦の離婚原因として最も多いのが、家事分担の不公平さです。お互いに仕事をしているにもかかわらず、家事の負担が一方に偏ってしまうことで、不満が蓄積していきます。
特に日本では、「夫は仕事、妻は家事」という伝統的な性別役割分担の意識が根強く残っているため、共働きであっても女性に家事負担が集中しがちです。この状況が長く続くと、身体的・精神的な疲労が蓄積し、最終的に離婚を考えるきっかけとなることがあります。
実際、裁判例を見ても、家事をしないことが離婚原因として認められるケースがあります。例えば、東京地裁平成15年4月21日の判決では、「被告(妻)の家事を拒否する態度という婚姻を継続し難い事由により(婚姻は)破綻したものと認められる」として離婚が認められています。
共働き夫婦の場合、一方が家事全般を担うとの合意がない限りは、家事についても協力・分担し合う義務があるとされています。合意がないのに一方がまったく家事をしない場合には「婚姻を継続し難い事由」に該当する可能性が高いのです。
共働き夫婦が離婚する際の財産分与については、専業主婦(夫)の家庭とは異なる注意点があります。
基本的に、財産分与の対象となるのは婚姻中に形成された財産です。具体的には以下のようなものが対象となります。
重要なのは、これらの財産は名義に関わらず、原則として夫婦の共有財産とみなされるという点です。つまり、妻名義の預貯金や夫名義の不動産であっても、婚姻中に形成されたものであれば財産分与の対象となります。
財産分与の割合は、原則として「夫婦が2分の1ずつ」となります。共働きで収入格差があっても、基本的には2分の1ずつの分割が原則です。ただし、医師や事業家など、一方の特殊なスキルや資格によって著しく高額な収入を得ている場合には、この原則が修正される可能性もあります。
共働き夫婦の場合、「自分の稼ぎは自分のもの」という意識が強いため、この原則に納得がいかないケースもありますが、法律上は婚姻中の協力関係を重視する考え方が取られています。
共働き夫婦特有の問題として、ペアローンで購入した住宅の処理があります。ペアローンとは、夫婦がそれぞれ住宅ローンを組み、お互いにパートナーのローンについて連帯保証をしたり、連帯債務者となるローンのことです。
近年、都市部での住宅価格高騰により、夫婦二人の収入を合わせてより高額のローンを組むペアローンの利用が増えています。このようなケースで離婚する場合、住宅の処理は複雑になります。
ペアローンで購入した住宅の処理方法は、主に住宅の市場価値とローン残額の関係によって異なります。
オーバーローンの場合は特に、金融機関との調整や不動産業者への相談など、複雑な処理が必要になることが多いため、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
共働き夫婦の場合、預貯金を各自で管理していることが多く、パートナーの財産内容を把握していないケースがよくあります。離婚時の財産分与を公平に行うためには、相手の財産を把握することが重要です。
相手の財産を調査する方法としては、以下のようなものがあります。
財産調査は離婚時の公平な財産分与のために重要なステップですが、法的な制約もあるため、弁護士のアドバイスを受けながら進めることをお勧めします。
共働き夫婦の離婚では、あまり知られていない問題として「年金分割」があります。年金分割とは、夫婦が婚姻中に払い込んだ年金保険料を分割する手続きで、いわば年金の財産分与のような制度です。
年金分割の対象となるのは「厚生年金(旧共済年金含む)」です。共働き夫婦の場合、一般的な認識と異なり、以下のような点に注意が必要です。
一般に「年金分割すると妻のもらえる年金が増える」と理解されていますが、共働きの場合にはそういった理解は通用しません。年金分割の申請は離婚後2年以内に行う必要がありますが、共働き夫婦の場合は特に、年金分割の影響を事前に十分検討することが重要です。
年金分割の具体的な影響を知るには、年金事務所で「年金分割のシミュレーション」を行うことができます。離婚協議の際には、この点も含めて総合的に検討することをお勧めします。
共働き夫婦の中には、「夫婦別会計」を採用しているケースも少なくありません。自分の収入は自分で管理し、生活費は折半したり負担部分を決めていたりする方法です。
このように夫婦別会計にしていても、離婚時の財産分与の基本的な考え方は変わりません。夫婦名義の預貯金や保険、株式や不動産などはすべて分与対象になり、原則として2分の1ずつに分け合います。
ただし、実務上は以下のような対応が取られることもあります。
このような取り決めは、夫婦間の協議で自由に決めることができます。ただし、一方の名義の資産が著しく多い場合には、公平性の観点から調整が必要になることもあります。
別会計を採用していた夫婦が離婚する際には、「自分の稼ぎは自分のもの」という意識が強いため、法律上の原則(2分の1ずつの分割)との間で認識のずれが生じやすいです。そのため、早い段階から弁護士などの専門家に相談し、適切な財産分与の方法を検討することをお勧めします。
また、別会計であっても、婚姻中の協力関係(例えば、一方が家事や育児に多くの時間を割いたことで、他方がキャリアに集中できたなど)を考慮して財産分与の割合を調整することもあります。
離婚協議の際には、単に「名義」だけでなく、婚姻生活全体における貢献度も考慮して、公平な解決を目指すことが大切です。
共働き夫婦が離婚する際の財産分与は、以下のような手順で進めるのが一般的です。
共働き夫婦の離婚では、財産分与や親権などの問題が複雑化しやすいため、早い段階から弁護士に相談することをお勧めします。特に以下のようなケースでは専門家のサポートが重要です。
弁護士に相談することで、法律に基づいた適切な財産分与の方法を知り、不利益を受けないように対応することができます。また、感情的になりがちな離婚協議において、冷静な判断をサポートしてもらえる点も大きなメリットです。
共働き夫婦の離婚は、経済的な自立があるからこそ、より公平で納得のいく解決を目指すことが大切です。そのためにも、正確な情報収集と専門家のアドバイスを活用しましょう。