ギャンブル依存症を抱える配偶者との離婚を考える方は少なくありません。法的には、ギャンブル依存症そのものが直接的な離婚理由として認められるわけではありませんが、その結果として生じる問題が離婚の法的根拠となります。
民法第770条に定められている離婚事由のうち、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するケースが多いです。具体的には以下のような状況が該当します。
裁判所の判例では、ギャンブルへの依存が原因で家庭生活が破綻し、回復の見込みがない場合には離婚が認められるケースが増えています。特に子どもの教育費や生活費にまで影響が及んでいる場合は、裁判所も離婚を認める傾向にあります。
ただし、離婚を成立させるためには、まず夫婦間での話し合い(協議離婚)を試みることが一般的です。合意に至らない場合は、調停離婚、審判離婚、裁判離婚という段階を踏むことになります。
ギャンブル依存症の配偶者が作った借金について、もう一方の配偶者にも返済義務があるのかという点は多くの方が不安に感じる問題です。結論から言えば、基本的には以下のルールが適用されます。
離婚時の財産分与においても、ギャンブルによる浪費は重要な考慮要素となります。通常、婚姻期間中に形成された財産は平等に分けるのが原則ですが、一方がギャンブルで多額の財産を浪費した場合、その分を考慮して財産分与の割合を調整することが可能です。
実際の裁判例では、ギャンブルによる浪費額を「みなし財産」として計算し、浪費した側の取り分から差し引くケースもあります。例えば、夫がギャンブルで500万円を浪費した場合、夫の取り分から500万円を差し引いて計算するといった方法です。
ギャンブル依存症は治療可能な精神疾患であり、適切な治療を受ければ回復する可能性があります。2020年4月からはギャンブル依存症の治療が保険適用となり、治療へのアクセスが改善されました。治療方法としては主に以下のようなものがあります。
治療期間は個人差が大きく、回復安定期に入るまでに半年で済む人もいれば、3年以上かかる人もいます。治療の成功率は、本人の回復への意欲や周囲のサポート体制によって大きく左右されます。
離婚を検討する際の判断ポイントとしては、以下の点を冷静に評価することが重要です。
特に重要なのは、「共依存」の問題です。ギャンブル依存症の配偶者を支えようとするあまり、問題行動を無意識に助長してしまうケースが少なくありません。自分自身の心理状態も含めて、専門家に相談することをお勧めします。
ギャンブル依存症を理由に離婚する場合、慰謝料や養育費の請求は重要な問題となります。慰謝料については、ギャンブル依存症そのものではなく、それによって生じた「不法行為」が請求の根拠となります。
慰謝料が認められる可能性がある不法行為の例。
慰謝料の相場は、ケースによって大きく異なりますが、一般的には50万円から300万円程度と言われています。ただし、ギャンブル依存症の配偶者が多額の借金を抱えている場合、慰謝料を実際に回収できるかどうかは別問題です。
養育費については、子どもの権利として確保することが重要です。養育費の算定基準は「養育費算定表」に基づいて決められますが、ギャンブル依存症の場合は以下の点に注意が必要です。
特に重要なのは、離婚時に公正証書を作成することです。公正証書があれば、養育費の支払いが滞った場合に、裁判を経ずに相手の財産や給料を差し押さえることができます。ギャンブル依存症の元配偶者の場合、この対策は特に重要です。
ギャンブル依存症の配偶者との離婚後、心理的な回復と新生活の構築は重要な課題となります。多くの場合、長期間にわたる精神的ストレスや経済的困難を経験しているため、自分自身のケアが必要です。
離婚後の心理的回復のステップ。
経済的な再建も重要な課題です。ギャンブル依存症の配偶者との結婚生活では、貯蓄が失われたり、借金を背負ったりしているケースが多いため、以下の点に取り組むことが大切です。
また、元配偶者がギャンブル依存症から回復していない場合、子どもとの面会交流についても慎重に計画を立てる必要があります。子どもの安全と心理的健康を最優先に考え、必要に応じて第三者の立ち会いのもとでの面会を検討するなどの対策が重要です。
新しい人間関係を構築する際も、過去の経験から学び、健全な関係性を見極める目を養うことが大切です。自助グループや当事者会への参加も、同じ経験を持つ人との交流を通じて回復を促進する効果があります。
ギャンブル依存症の家族向け支援情報(一般社団法人ギャンブル依存症問題を考える会)
離婚は終わりではなく、新しい人生の始まりです。適切なサポートを受けながら、一歩ずつ前に進んでいくことが大切です。
ギャンブル依存症が関わる離婚は、通常の離婚よりも複雑な法的問題を含むことが多いため、専門的な知識を持つ弁護士への相談が重要です。弁護士選びのポイントとしては以下の点に注目しましょう。
弁護士に相談する際は、以下の資料を準備しておくと効率的です。
弁護士への相談は無料初回相談を実施している事務所も多いので、複数の弁護士に相談して比較検討することをお勧めします。特に重要なのは、あなたの状況を理解し、共感してくれる弁護士を選ぶことです。
弁護士に依頼することで得られるメリットは多岐にわたります。
特に、ギャンブル依存症の配偶者が離婚に応じない場合や、借金問題が複雑な場合は、早い段階での弁護士相談が問題解決の鍵となります。
法務省:法テラス(日本司法支援センター)の無料法律相談
経済的に余裕がない場合は、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度を利用することも検討しましょう。この制度では、一定の条件を満たす方に対して、弁護士費用の立替えや分割払いの制度があります。
ギャンブル依存症が絡む離婚は複雑ですが、適切な法的サポートを得ることで、新しい生活への第一歩を踏み出すことができます。自分と子どもの未来のために、専門家の力を借りることを躊躇わないでください。