親子関係不存在確認の訴えとは、法律上の親子関係を争うための裁判手続きです。この手続きは、戸籍上の親子関係が実際の血縁関係と一致していない場合に、その法的関係を否定するために行われます。
主に父子関係について問題となることが多いです。母子関係は出産という客観的な事実から明らかであるため、争いになることは少ないからです。戸籍上、親子として記載されている者が実際には親子ではない場合、戸籍の訂正をするためには裁判所の判決(または審判)が必要となります。
親子関係不存在確認の訴えは、以下のような場合に利用されます。
この手続きは、単なる血縁関係の有無だけでなく、法的な親子関係の存否を確定させるという重要な役割を持っています。
親子関係不存在確認の訴えと嫡出否認の訴えは、どちらも親子関係を争うための手続きですが、適用される状況や条件が異なります。どちらの手続きを選ぶべきかは、子どもが「嫡出推定」を受けるかどうかによって決まります。
嫡出推定とは、民法772条に基づき、以下の子どもが夫の子と推定される制度です。
両手続きの主な違いは以下の表のとおりです。
項目 | 嫡出否認の訴え | 親子関係不存在確認の訴え |
---|---|---|
対象 | 推定される嫡出子 | 推定されない嫡出子・非嫡出子 |
申立権者 | 子の戸籍上の父のみ | 子、母、戸籍上の父、実父など |
期限 | 子の出生を知ってから3年以内(2022年改正後) | 期限なし |
条件 | 嫡出推定が及ぶ子 | 嫡出推定が及ばない子 |
嫡出推定が及ぶ子どもについては原則として嫡出否認の訴えによるしかありませんが、例外的に以下のような場合には親子関係不存在確認の訴えが認められることがあります。
このような「客観的に妻が夫の子を妊娠する可能性がなかった」と認められる特殊なケースでは、嫡出推定が及ばないとして親子関係不存在確認の訴えが可能となります。
親子関係不存在確認の訴えを提起する際には、「調停前置主義」が適用されます。これは、いきなり訴訟を起こすのではなく、まず家庭裁判所で調停を行うことを義務付ける制度です。手続きの流れは以下のとおりです。
調停から訴訟まで含めた全体の期間は、当事者の協力度合いや裁判所の混雑状況によりますが、数ヶ月から1年程度かかることが一般的です。
親子関係不存在確認の手続きにおいて、DNA鑑定は非常に重要な証拠となります。DNA鑑定は99.9%以上の精度で親子関係の有無を科学的に証明できるため、裁判所でも高い証拠能力を認められています。
しかし、注意すべき点として、DNA鑑定で親子関係がないと判明しても、それだけで自動的に法的な親子関係が否定されるわけではありません。特に嫡出推定が及ぶ子どもについては、最高裁判所の判例により、DNA鑑定の結果だけでは嫡出推定を覆すことはできないとされています。
2014年7月17日の最高裁判決では、「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではない」として、嫡出推定が及ぶ子どもについてはDNA鑑定の結果のみで親子関係不存在確認の訴えを認めませんでした。
DNA鑑定を行う際の注意点。
親子関係不存在確認により法的な親子関係が否定された場合、養育費や慰謝料に関して以下のような影響が生じます。
養育費への影響。
親子関係が法的に否定されると、原則として養育費の支払い義務はなくなります。ただし、すでに支払った養育費については、不当利得として返還を求めることができる可能性があります。しかし、子どもの福祉を考慮して、過去の養育費の返還請求が認められないケースもあります。
慰謝料請求の可能性。
妻が夫の子ではないことを知りながら隠していた場合、夫は妻に対して不貞行為や欺罔(ぎもう)を理由とした慰謝料を請求できる可能性があります。慰謝料の相場は、事案の悪質性や期間によって異なりますが、概ね100万円から300万円程度とされています。
ただし、嫡出推定が及ぶ子どもについて親子関係不存在確認が認められないケースでは、法的には親子関係が継続するため、養育費支払い義務も継続します。この場合でも、以下のような特殊なケースでは養育費請求が権利濫用として否定された裁判例があります。
親子関係不存在確認の訴えが認められるか否かは、個々の事案の具体的状況によって大きく異なります。そのため、このような問題に直面した場合は、早めに専門の弁護士に相談することが重要です。弁護士は、具体的な状況を踏まえた適切な法的アドバイスを提供し、最善の解決策を見つける手助けをしてくれます。