経済的虐待とは、配偶者やパートナーが相手の経済的自由を奪い、支配・抑圧するDVの一種です。この問題は近年、社会的認知が高まっていますが、他の暴力と比べて見えにくく、被害者自身も「これは虐待だ」と認識しづらい特徴があります。
経済的虐待の具体的な事例には以下のようなものがあります。
これらの行為は単なる「家計管理の方法の違い」ではなく、相手を支配し心理的に追い込む暴力行為です。被害者は経済的自立が困難になり、離婚を考えても経済面での不安から踏み出せないケースが多くあります。
内閣府男女共同参画局による「配偶者からの暴力の被害実態」調査結果
経済的虐待を受けた方は、深刻な心理的ダメージを負っていることが少なくありません。自己肯定感の低下、無力感、恐怖、不安、うつ症状などが現れることがあります。このような状態で適切な判断を下すことは困難であり、離婚を考える前に心理的ケアを受けることが重要です。
心理的ケアの主な方法
経済的虐待からの回復には時間がかかります。「すぐに離婚すべき」「我慢すべき」といった極端な判断を急がず、まずは安全な環境で自分の気持ちと向き合うことが大切です。心理的に安定してから法的手続きを検討することで、より冷静な判断ができるようになります。
経済的虐待のケースでは、離婚時の財産分与が特に重要な課題となります。通常、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産は、離婚時に平等に分けることが原則です。しかし、経済的虐待のケースでは以下のような問題が生じやすくなります。
このような状況に対処するためには、以下の対策が効果的です。
経済的虐待のケースでは、通常の財産分与の割合(5:5)にとらわれず、虐待による精神的苦痛や経済的損失を考慮した分与を求めることも検討すべきです。
経済的虐待から抜け出し、新たな生活を始めるためには、経済的自立が不可欠です。しかし、長期間にわたって経済的に支配されていた場合、すぐに自立することは困難です。そこで活用したい支援制度には以下のようなものがあります。
公的支援制度
DV被害者向け特別支援
就労支援
経済的虐待の被害者が離婚を考える際、これらの支援制度を活用することで、経済的不安を軽減できます。また、保護命令制度を利用して加害者との接触を制限することも、安全に新生活を始めるために重要です。
支援制度の利用にあたっては、地域の配偶者暴力相談支援センターや福祉事務所に相談することをお勧めします。専門のスタッフが個々の状況に応じた支援プランを提案してくれます。
経済的虐待が行われている家庭では、子どもたちも深刻な影響を受けています。直接的な虐待の対象でなくても、親の間の経済的虐待を目撃することで、子どもは以下のような影響を受ける可能性があります。
離婚を考える際、子どもの親権をどうするかは重要な問題です。経済的虐待のケースでは、以下の点を考慮する必要があります。
裁判所は近年、経済的虐待を含むDVの事実を親権判断の重要な要素として考慮するようになっています。経済的虐待の証拠を適切に提示することで、子どもの利益を最優先した親権判断を求めることが可能です。
また、離婚後も元配偶者が養育費を支払わないという形で経済的虐待が継続するケースも少なくありません。このような場合には、養育費の取り決めを公正証書にする、家庭裁判所の調停・審判を利用する、養育費履行確保のための制度を活用するなどの対策が必要です。
経済的虐待から抜け出し、離婚後の新生活を構築するためには、段階的なアプローチが効果的です。以下に、回復と自立のためのステップを紹介します。
1. 安全の確保と緊急対応
2. 専門家への相談と支援ネットワークの構築
3. 経済的基盤の整備
4. 法的手続きの進行
5. 新生活の構築と長期的な回復
経済的虐待からの回復は一朝一夕には進みません。小さな成功体験を積み重ね、自信を取り戻していくプロセスが重要です。また、同じような経験をした人々とのつながりは、孤独感を軽減し、実践的なアドバイスを得る貴重な機会となります。
「経済的に自立できるか不安」という気持ちは当然のことです。しかし、適切な支援を受けながら一歩ずつ進むことで、必ず道は開けます。自分のペースで回復と自立のプロセスを進めていきましょう。
内閣府男女共同参画局による「配偶者からの暴力被害者支援情報」ガイド
経済的虐待による心理的ダメージは、離婚後も長期間にわたって影響を及ぼすことがあります。近年、このような特殊なトラウマに対する専門的なケアアプローチが注目されています。
トラウマインフォームドケア(TIC)
トラウマインフォームドケアは、支援者がトラウマの影響を理解し、それを考慮したサポートを提供するアプローチです。経済的虐待の被害者に対しては、以下のような点に配慮したケアが行われます。
経済的エンパワメントプログラム
単なる就労支援にとどまらず、経済的自己効力感(自分は経済的に自立できるという信念)を高めるためのプログラムが開発されています。
ソーシャルメディアを活用した新しい支援の形
コロナ禍以降、オンラインでの支援が急速に広がっています。
これらの新しいアプローチは、従来の対面支援と組み合わせることで、より効果的な回復支援となります。特に、地理的・時間的制約がある被害者にとって、オンライン支援の拡充は大きな助けとなっています。
また、経済的虐待からの回復においては、「お金」に対する健全な関係性を再構築することが重要です。お金を支配の道具ではなく、生活を豊かにするための手段として捉え直す心理的な作業が必要となります。
経済的虐待からの回復に関する最新研究(英語)
経済的虐待からの回復は、単に経済的に自立することだけではなく、心理的な傷を癒し、お金との健全な関係を取り戻すプロセスでもあります。専門家のサポートを受けながら、自分のペースで回復の道を歩んでいくことが大切です。