家族法改正と共同親権で離婚問題解決

2025年に施行予定の家族法改正により、離婚後の共同親権が可能になります。不倫や離婚に悩む方々にとって、この法改正がどのような影響をもたらすのでしょうか?子どもの権利や養育費問題はどう変わるのでしょうか?

家族法改正と離婚後の親権問題

家族法改正のポイント
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共同親権制度の導入

離婚後も父母双方が親権を持つことが可能になります

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法定養育費制度の新設

政省令で定められた算定額の養育費を請求できるようになります

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財産分与請求期限の延長

離婚後の財産分与請求期限が2年から5年に延長されます

家族法改正で導入される共同親権制度の概要

2024年1月30日、法制審議会は家族法の改正に向けた要綱案の取りまとめに入りました。この改正は早ければ2025年中にも施行される見込みです。最も注目すべき点は、これまで離婚時に「一方を親権者と定めなければならない」としていた民法第819条が見直され、父母の「双方又は一方」を親権者と定めることが可能になる点です。

 

この改正により、協議離婚の場合は父母の協議で、裁判離婚の場合は裁判所が、父母の双方または一方を親権者と定めることができるようになります。ただし、誤解されがちな点として、すべてのケースで自動的に共同親権になるわけではありません。状況に応じて単独親権を選択することも引き続き可能です。

 

共同親権制度導入の背景には、以下のような社会的要因があります。

  • 国際的な潮流への対応(多くの先進国ではすでに共同親権制度を採用)
  • 離婚後も両親が子どもの成長に関わる権利と責任を持つべきという考え方の広まり
  • 単独親権制度下での「親権争い」による子どもへの悪影響への懸念

離婚と不倫問題における親権の重要性

不倫が原因で離婚に至るケースでは、感情的な対立から親権問題がさらに複雑化することがあります。現行の単独親権制度では、親権を得られなかった親(非監護親)は子どもの法的な決定に関わる権利を失うため、親権をめぐる争いが激化しやすい状況がありました。

 

不倫問題が絡む離婚では特に以下の点が問題となりがちです。

  1. 不倫した側への「制裁」として親権を認めないという感情的な判断
  2. 子どもを「取られる」恐怖から離婚に踏み切れない状況
  3. 親権者である元配偶者への復讐として養育費の支払いを拒否するケース

共同親権制度の導入により、これらの問題が緩和される可能性があります。両親が法的な親としての地位を維持できることで、「親権を失う」という恐怖から解放され、より冷静な判断ができるようになるかもしれません。

 

ただし、DV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待など、他方配偶者に深刻な問題がある場合には、子どもの安全を最優先に考え、単独親権を選択すべきケースもあります。共同親権制度は万能ではなく、ケースバイケースでの判断が必要です。

 

法定養育費制度と子どもの権利保護

家族法改正のもう一つの重要なポイントは、法定養育費制度の導入です。この制度では、養育費を定めることなく協議上の離婚をした場合でも、子どもを監護する親が他方の親に対して、「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて政省令で定めるところにより算定した額」の支払いを請求できるようになります。

 

現状では、養育費の取り決めをせずに離婚するケースが多く、離婚後に養育費を継続して受給できている世帯は母子世帯で24.3%、父子世帯ではわずか3.2%という低い水準にとどまっています。法定養育費制度の導入により、養育費の支払い率向上が期待されています。

 

法定養育費制度のメリット。

  • 養育費の算定基準が明確になり、交渉の手間が省ける
  • 養育費の取り決めがない場合でも請求権が法的に保障される
  • 子どもの生活水準の確保につながる

ただし、元配偶者が無職や収入が少ない場合など、養育費を支払う能力がない状況では、制度があっても実効性に課題が残ります。理想的には、公的機関が養育費を立て替え払いする制度の導入や、養育費不払いに対する強制執行の簡素化なども検討される必要があるでしょう。

 

財産分与請求期限の延長と離婚後の経済的公平性

家族法改正では、財産分与請求の期限が現行の「離婚後2年」から「離婚後5年」に延長されます。これにより、離婚時に十分な情報や交渉力がなかったために不利な財産分与に合意してしまった場合や、財産分与を行わずに離婚してしまった場合でも、より長い期間にわたって請求の機会が確保されます。

 

この改正は特に、以下のようなケースで重要な意味を持ちます。

  • DV被害などで早急に離婚する必要があり、財産分与の交渉が十分にできなかった場合
  • 離婚時には価値が明らかでなかった資産(起業した会社の株式価値など)が後に高騰した場合
  • 離婚後に隠し資産が発覚した場合

財産分与は離婚後の経済的自立を支える重要な要素です。特に専業主婦(夫)として家庭を支えてきた場合、離婚後の経済的自立は容易ではありません。請求期限の延長により、より公平な財産分与が実現する可能性が高まります。

 

法務省:家族法制部会の審議状況について(詳細な法改正の内容と審議経過が確認できます)

家族法改正がもたらす離婚調停への影響と対応策

家族法改正は離婚調停の進め方にも大きな影響を与えることが予想されます。共同親権制度の導入により、これまでの「どちらが親権者になるか」という二者択一の議論から、「どのように親権を行使するか」という協議へと焦点が移ります。

 

離婚調停における新たな論点。

  1. 親権の行使方法に関する取り決め(教育方針、医療決定など)
  2. 子どもの居所(主たる監護者)の決定
  3. 面会交流の頻度・方法の詳細な取り決め
  4. 養育費の算定と支払い方法

特に注目すべきは、共同親権下での「親権の行使方法」についての取り決めです。例えば、子どもの進学先や医療行為への同意など、重要な決定をどのように行うかについて、事前に詳細な取り決めを行っておくことが重要になります。

 

離婚調停に臨む際の対応策。

  • 事前に弁護士に相談し、共同親権制度の下での権利と義務について理解を深める
  • 子どもの最善の利益を最優先に考え、感情的な対立を避ける
  • 将来起こりうる状況(転居、再婚など)も想定した取り決めを検討する
  • 必要に応じて、家族カウンセラーなどの専門家のサポートを受ける

共同親権制度の導入により、離婚後も両親が協力して子育てを行う「共同養育(コ・ペアレンティング)」の考え方がより重要になります。これは子どもの健全な成長にとって理想的ですが、元夫婦間のコミュニケーションが円滑でない場合には難しい面もあります。そのため、離婚調停では、共同親権の下での具体的な協力体制について、できるだけ詳細に取り決めておくことが望ましいでしょう。

 

裁判所:離婚調停手続きの流れ(調停の進め方や必要書類について解説されています)

不倫問題と家族法改正の心理的影響

不倫問題が絡む離婚では、感情的な対立が深刻化しやすく、冷静な判断が難しくなることがあります。家族法改正、特に共同親権制度の導入は、このような状況にどのような心理的影響をもたらすでしょうか。

 

不倫による離婚と共同親権の心理的側面。

  1. 信頼関係の崩壊と共同親権の難しさ:不倫によって深く傷ついた関係では、離婚後も共同で子育てに関わる決断をすることが心理的に大きな負担となる可能性があります。
  2. 子どもへの影響を考慮した冷静な判断:共同親権制度の導入により、「親権を失う」という恐怖が軽減され、子どもにとって何が最善かをより冷静に考えられるようになるかもしれません。
  3. 復讐感情と養育費問題:不倫された側の復讐感情が養育費不払いにつながるケースがありますが、法定養育費制度の導入により、このような感情的要素が子どもの生活に影響することを防ぐ効果が期待できます。
  4. 心理的葛藤への対処:共同親権下では、不倫問題で傷ついた感情を抱えながらも、子どものために元配偶者と協力関係を維持する必要があり、心理的なサポートが重要になります。

不倫問題を乗り越え、子どもの幸せを最優先に考えるためには、以下のような心理的サポートが有効です。

  • 専門家(カウンセラーや心理士)によるカウンセリング
  • 離婚後の共同養育(コ・ペアレンティング)をサポートするグループへの参加
  • 子どもの気持ちを理解するための親教育プログラムの受講

家族法改正は法的枠組みを変えるものですが、その効果を最大化するためには、当事者の心理的なケアも同時に行われることが重要です。特に不倫問題が絡む場合は、感情的な対立を乗り越え、子どもの幸せを中心に据えた冷静な判断ができるよう、専門家のサポートを積極的に活用することをお勧めします。

 

厚生労働省:ひとり親家庭等の支援について(心理的サポートを含む各種支援制度が紹介されています)

家族法改正後の離婚と子育ての新しいかたち

共同親権下での面会交流と子どもの心理的安定

家族法改正により導入される共同親権制度は、離婚後の面会交流のあり方にも大きな影響を与えることが予想されます。共同親権下では、非同居親(子どもと一緒に住んでいない親)も法的な親としての地位を維持するため、より積極的に子どもとの関わりを持つことが期待されます。

 

面会交流は子どもの心理的安定にとって非常に重要です。両親との継続的な関係を維持することで、子どもは自分がどちらの親からも愛されていると感じ、自己肯定感を保ちやすくなります。また、離婚という大きな環境変化の中でも、両親との関係が継続することで心理的な安定が得られます。

 

共同親権下での効果的な面会交流のポイント。

  • 定期的かつ予測可能なスケジュールの設定(子どもが安心感を持てる)
  • 子どもの年齢や発達段階に応じた交流方法の選択
  • オンラインツールも活用した日常的なコミュニケーションの維持
  • 特別な行事(誕生日、学校行事など)への両親の参加

特に注目すべきは、共同親権制度の導入により、「週末だけの面会」から「共同養育(シェアード・ケア)」へと移行する可能性が高まる点です。例えば、「平日は母親宅、週末は父親宅」といった形で子どもが両親の家を行き来する養育形態が増える可能性があります。

 

ただし、このような形態が子どもにとって本当に良いかどうかは、個々の状況によって異なります。子どもの年齢や性格、両親の住居の距離、学校との関係など、様々な要素を考慮して判断する必要があります。最も重要なのは、子どもにとっての安定感と予測可能性を確保することです。

 

裁判所:面会交流調停について(面会交流の取り決め方や調停の進め方について解説されています)

養育費の確保と子どもの生活水準の維持

家族法改正で導入される法定養育費制度は、離婚後の子どもの生活水準を維持するための重要な施策です。現状では養育費の支払い率が低く、ひとり親家庭、特に母子家庭の貧困率が高いという社会問題があります。

 

法定養育費制度のポイント。

  1. 養育費の取り決めがない離婚でも、政省令で定められた算定額の支払いを請求できる
  2. 算定額は「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用」などを考慮して決定される
  3. 子どもの数に応じて金額が設定される

この制度により、離婚時に養育費について話し合う余裕がなかったケースや、感情的な対立から養育費の取り決めができなかったケースでも、後から養育費を請求できるようになります。これは子どもの権利保護という観点から非常に重要な進展です。

 

しかし、制度があっても実際に養育費が支払われるかどうかは別問題です。養育費の不払い問題に対処するためには、以下のような取り組みも必要でしょう。

  • 給与天引きなど、より確実な支払い方法の導入
  • 養育費立替払い制度の拡充
  • 養育費不払いに対する強制執行手続きの簡素化

また、養育費の金額設定についても、子どもの実際のニーズに合った適切な金額が設定されることが重要です。単に「最低限度の生活維持」だけでなく、教育費や習い事、医療費なども考慮した総合的な算定方法が望まれます。

 

厚生労働省:養育費の確保について(養育費の算定方法や確保のための支援制度が紹介されています)

国際離婚と家族法改正の関連性

国際結婚・国際離婚のケースでは、各国の法制度の違いが複雑な問題を引き起こすことがあります。日本の単独親権制度は国際的には少数派であり、多くの国では共同親権制度を採用しています。このため、国際離婚では親権をめぐる国際的な法的紛争が発生することがありました。

 

家族法改正による共同親権制度の導入は、このような国際的な法的紛争を減少させる効果が期待されます。特に以下の点で改善が見込まれます。

  1. ハーグ条約との整合性向上:日本は2014年にハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に加入していますが、単独親権制度との整合性に課題がありました。共同親権制度の導入により、国際的な子の返還問題に関する法的枠組みがより整合的になります。
  2. 国際的な親権紛争の減少:共同親権が選択肢となることで、外国人配偶者が日本の法制度に不信感を持ち、子どもを無断で国外に連れ出すといったケースが減少する可能性があります。
  3. 国際的な判決の承認と執行の円滑化:共同親権制度の導入により、外国で下された親権に関する判決が日本でも承認・執行されやすくなる可能性があります。

国際離婚を検討している方は、以下の点に特に注意が必要です。

  • 両国の法制度の違いを事前に理解しておく
  • 国際離婚に詳しい弁護士に相談する
  • 子どもの国籍や居住国によって適用される法律が異なる可能性を考慮する
  • 離婚後の国際的な面会交流の実現可能性について検討する

家族法改正は国際離婚の問題をすべて解決するものではありませんが、日本の法制度が国際標準に近づくことで、国際的な親権紛争が減少し、子どもの利益がより守られることが期待されます。

 

外務省:ハーグ条約について(国際的な子の奪取に関する条約の概要と手続きが解説されています)

デジタル時代の共同親権と新たな課題

家族法改正が施行される2025年は、デジタル技術がさらに進化している時代です。共同親権制度の運用においても、デジタル技術の活用と、それに伴う新たな課題が生じることが予想されます。

 

デジタル技術を活用した共同親権の実践。

  1. 共同養育アプリの活用:離婚後の共同養育をサポートするアプリが増えています。これらのアプリでは、子どもの予定管理、経費の記録と分担、メッセージのやり取りなどが一元管理でき、感情的な対立を避けながら効率的に共同養育を行うことができます。
  2. オンライン面会交流:地理的に離れている場合でも、ビデオ通話を活用することで日常的なコミュニケーションを維持できます。特に幼い子どもの場合、顔を見て話すことで関係性を維持しやすくなります。
  3. デジタル記録の共有:子どもの学校の成績表、医療記録、課外活動の情報などをクラウド上で共有することで、両親が子どもの状況を常に把握できるようになります。

一方で、デジタル時代の共同親権には以下のような新たな課題も生じます。

  1. デジタルプライバシーの問題:子どものSNS利用やスマートフォンの管理について、両親の方針が異なる場合の調整が必要になります。
  2. 情報格差への対応:デジタルリテラシーの差により、片方の親が情報にアクセスしにくい状況が生じる可能性があります。
  3. オンラインハラスメントのリスク:デジタルコミュニケーションツールが元配偶者によるハラスメントの手段となる可能性もあります。

これらの課題に対応するためには、離婚時に「デジタル共同養育計画」を作成することが有効です。この計画には、子どものデジタル機器の使用ルール、オンラインでの情報共有方法、デジタルコミュニケーションのガイドラインなどを含めることができます。

 

また、法的な面では、共同親権下でのデジタルプライバシーに関する権利と責任の明確化が今後の課題となるでしょう。例えば、子どものSNSアカウント開設に両親の同意が必要かどうか、子どものオンライン活動の監視権限をどう分担するかなど、新たな法的論点が生じる可能性があります。

 

総務省:インターネットを安全に使うために(子どものインターネット利用に関する安全対策が紹介されています)