配偶者からの暴力(DV)は長い間、「家庭内の問題」として社会から見過ごされてきました。しかし、DVは重大な人権侵害であり、被害者の心身に深刻な影響を与えます。このような状況を改善するため、2001年4月に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が成立しました。
この法律は、日本国憲法に掲げられている個人の尊重と法の下の平等の理念に基づき、DVを「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」と明確に位置づけています。特に被害者の多くが女性であり、経済的に自立が困難な状況に置かれていることから、DVは男女平等の実現を妨げる要因としても認識されています。
当初は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」という名称でしたが、2014年の法改正により「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」に改称されました。この改正では保護の対象範囲が拡大され、より包括的な被害者支援が可能となりました。
DV防止法では、「配偶者からの暴力」を明確に定義しています。第一条によれば、「配偶者からの暴力」とは以下のようなものを指します。
重要なのは、この法律における「配偶者」の定義が広いことです。法的に婚姻関係にある夫婦だけでなく、以下のケースも含まれます。
また、DV防止法は性別を問わず適用されます。つまり、夫から妻へのDVだけでなく、妻から夫へのDV、同性カップル間のDVも対象となります。保護命令についても同性カップルに適用された事例があります。
DV防止法の最も重要な特徴の一つが「保護命令制度」です。被害者の安全を確保するため、裁判所が加害者に対して一定の行為を禁止する命令を出すことができます。
保護命令には主に以下の種類があります。
保護命令の対象となる暴力は「身体に対する暴力」または「生命等に対する脅迫」です。保護命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰が科されます。
保護命令を申し立てるには、地方裁判所に「保護命令申立書」を提出します。申立ての際には、暴力の事実を証明する資料(診断書、写真、第三者の証言など)が必要となることが多いです。
東京地方裁判所の保護命令申立て手続きの詳細はこちらで確認できます
DVが原因で離婚を考える場合、DV防止法の知識は非常に重要です。離婚手続きとDV防止法は密接に関連しており、適切に活用することで安全に離婚手続きを進めることができます。
DVが原因の離婚には、主に以下の方法があります。
DV被害者が離婚を考える際には、まず保護命令を申し立てて安全を確保し、その後に離婚手続きを進めるという流れが一般的です。また、住民票の異動なしに避難先の市区町村で各種手続きができる「住民基本台帳事務における支援措置」も利用できます。
不倫と精神的DVの関連性は、あまり一般に知られていない問題です。不倫自体はDVではありませんが、不倫を契機に精神的DVが始まったり、悪化したりするケースは少なくありません。
精神的DVの具体例としては以下のようなものがあります。
DV防止法では、このような精神的暴力も「心身に有害な影響を及ぼす言動」として保護の対象となります。ただし、保護命令の申立てについては、身体的暴力や生命・身体への脅迫が主な対象となるため、精神的DVのみの場合は保護命令が出にくい現状があります。
不倫と精神的DVが絡む場合の対処法
DV防止法は社会状況の変化に応じて数回の改正が行われてきました。主な改正内容は以下の通りです。
2023年の改正では、以下のような点が強化されました。
しかし、依然として以下のような課題が残されています。
特にデートDVについては、生活の本拠を共にしない交際相手からの暴力は現行法では十分にカバーされていないため、若年層を中心に被害が広がっています。
内閣府男女共同参画局のDV防止法に関する最新情報はこちらで確認できます
DV防止法は、被害者保護の重要な法的枠組みですが、社会の変化に応じて継続的な見直しと改善が必要です。不倫や離婚の問題に直面している方は、この法律の知識を活用して自身の安全を確保し、適切な支援を受けることが大切です。
DVに悩んでいる方は、一人で抱え込まず、まずは以下の相談窓口に連絡することをお勧めします。
離婚や不倫の問題は複雑で感情的になりがちですが、まずは自分自身の安全を最優先に考え、専門家のサポートを受けながら冷静に対処していくことが重要です。DV防止法は、あなたを守るための法律です。適切に活用して、新しい生活への一歩を踏み出してください。