配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律と離婚の手続き

配偶者からの暴力に悩む方へ、DV防止法の基本知識と保護命令の申立方法、離婚手続きまでを解説します。暴力に苦しむあなたを守る法律とは?あなたはひとりではありません。どのような支援が受けられるのでしょうか?

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律について

DV防止法の基本知識
📜
法律の正式名称

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(通称:DV防止法)

📅
成立と施行

2001年4月成立、同年10月から施行(一部は2002年4月施行)

🛡️
法律の目的

配偶者からの暴力を防止し、被害者を適切に保護することで人権擁護と男女平等の実現を図る

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の成立背景

配偶者からの暴力(DV)は長い間、「家庭内の問題」として社会から見過ごされてきました。しかし、DVは重大な人権侵害であり、被害者の心身に深刻な影響を与えます。このような状況を改善するため、2001年4月に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が成立しました。

 

この法律は、日本国憲法に掲げられている個人の尊重と法の下の平等の理念に基づき、DVを「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」と明確に位置づけています。特に被害者の多くが女性であり、経済的に自立が困難な状況に置かれていることから、DVは男女平等の実現を妨げる要因としても認識されています。

 

当初は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」という名称でしたが、2014年の法改正により「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」に改称されました。この改正では保護の対象範囲が拡大され、より包括的な被害者支援が可能となりました。

 

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律における「暴力」の定義

DV防止法では、「配偶者からの暴力」を明確に定義しています。第一条によれば、「配偶者からの暴力」とは以下のようなものを指します。

  1. 身体に対する暴力:殴る、蹴る、突き飛ばすなどの身体的暴力
  2. 心身に有害な影響を及ぼす言動:精神的暴力、性的暴力、経済的暴力など

重要なのは、この法律における「配偶者」の定義が広いことです。法的に婚姻関係にある夫婦だけでなく、以下のケースも含まれます。

  • 事実婚の関係にある者(婚姻届を出していなくても実質的に夫婦と同様の関係)
  • 離婚後も引き続き暴力を受ける元配偶者からの暴力
  • 2014年の改正により、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力も対象に

また、DV防止法は性別を問わず適用されます。つまり、夫から妻へのDVだけでなく、妻から夫へのDV、同性カップル間のDVも対象となります。保護命令についても同性カップルに適用された事例があります。

 

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律による保護命令制度

DV防止法の最も重要な特徴の一つが「保護命令制度」です。被害者の安全を確保するため、裁判所が加害者に対して一定の行為を禁止する命令を出すことができます。

 

保護命令には主に以下の種類があります。

  1. 接近禁止命令:加害者が被害者に6か月間近づくことを禁止
  2. 退去命令:加害者に2週間、共同住居から退去することを命令
  3. 電話等禁止命令:加害者が被害者に対して電話やメールなどで連絡することを禁止
  4. 子への接近禁止命令:被害者の子どもへの接近を禁止
  5. 親族等への接近禁止命令:被害者の親族等への接近を禁止

保護命令の対象となる暴力は「身体に対する暴力」または「生命等に対する脅迫」です。保護命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰が科されます。

 

保護命令を申し立てるには、地方裁判所に「保護命令申立書」を提出します。申立ての際には、暴力の事実を証明する資料(診断書、写真、第三者の証言など)が必要となることが多いです。

 

東京地方裁判所の保護命令申立て手続きの詳細はこちらで確認できます

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律と離婚手続きの関係

DVが原因で離婚を考える場合、DV防止法の知識は非常に重要です。離婚手続きとDV防止法は密接に関連しており、適切に活用することで安全に離婚手続きを進めることができます。

 

DVが原因の離婚には、主に以下の方法があります。

  1. 協議離婚:当事者間の合意による離婚
    • DV被害者にとっては加害者と直接交渉することになるため危険が伴うことも
    • 弁護士などの専門家を介して進めることが安全
  2. 調停離婚:家庭裁判所での調停による離婚
    • DV被害者は「別席調停」を申し立てることで、加害者と顔を合わせずに調停を進行可能
    • 調停委員が間に入るため、直接交渉よりも安全
  3. 裁判離婚:裁判所の判決による離婚
    • DVは民法770条の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当
    • 証拠(診断書、写真、録音など)が重要

DV被害者が離婚を考える際には、まず保護命令を申し立てて安全を確保し、その後に離婚手続きを進めるという流れが一般的です。また、住民票の異動なしに避難先の市区町村で各種手続きができる「住民基本台帳事務における支援措置」も利用できます。

 

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律における不倫と精神的DVの関連性

不倫と精神的DVの関連性は、あまり一般に知られていない問題です。不倫自体はDVではありませんが、不倫を契機に精神的DVが始まったり、悪化したりするケースは少なくありません。

 

精神的DVの具体例としては以下のようなものがあります。

  • 不倫を理由に相手を責め続ける、罵倒する
  • 「お前が悪いから浮気した」と責任転嫁する
  • 不倫の事実を利用して脅迫する(「言うことを聞かないと不倫のことを家族や職場に言いふらす」など)
  • 不倫相手と比較して相手を貶める

DV防止法では、このような精神的暴力も「心身に有害な影響を及ぼす言動」として保護の対象となります。ただし、保護命令の申立てについては、身体的暴力や生命・身体への脅迫が主な対象となるため、精神的DVのみの場合は保護命令が出にくい現状があります。

 

不倫と精神的DVが絡む場合の対処法

  1. 証拠を収集する(メール、LINE、録音など)
  2. 専門機関(配偶者暴力相談支援センターなど)に相談する
  3. 必要に応じて弁護士に相談する

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の最新改正と今後の課題

DV防止法は社会状況の変化に応じて数回の改正が行われてきました。主な改正内容は以下の通りです。

  • 2004年改正:保護命令の拡充(子どもや親族への接近禁止命令の追加)
  • 2007年改正:市町村の役割強化、基本計画策定の義務化
  • 2013年改正:生活の本拠を共にする交際相手への法律の準用
  • 2023年改正:2023年5月に改正法が成立し、2024年4月から施行予定

2023年の改正では、以下のような点が強化されました。

  1. 精神的暴力(モラルハラスメント)への対応強化
  2. 保護命令制度の拡充
  3. 加害者更生プログラムの法的位置づけの明確化

しかし、依然として以下のような課題が残されています。

  • デートDV(同居していない交際相手からの暴力)への対応
  • 精神的DVの立証の難しさ
  • 加害者更生プログラムの実効性
  • 被害者支援体制の地域格差

特にデートDVについては、生活の本拠を共にしない交際相手からの暴力は現行法では十分にカバーされていないため、若年層を中心に被害が広がっています。

 

内閣府男女共同参画局のDV防止法に関する最新情報はこちらで確認できます
DV防止法は、被害者保護の重要な法的枠組みですが、社会の変化に応じて継続的な見直しと改善が必要です。不倫や離婚の問題に直面している方は、この法律の知識を活用して自身の安全を確保し、適切な支援を受けることが大切です。

 

DVに悩んでいる方は、一人で抱え込まず、まずは以下の相談窓口に連絡することをお勧めします。

  • DV相談ナビ:#8008(全国共通短縮番号)
  • DV相談プラス:0120-279-889(24時間対応)
  • 各都道府県の配偶者暴力相談支援センター

離婚や不倫の問題は複雑で感情的になりがちですが、まずは自分自身の安全を最優先に考え、専門家のサポートを受けながら冷静に対処していくことが重要です。DV防止法は、あなたを守るための法律です。適切に活用して、新しい生活への一歩を踏み出してください。