モラルハラスメント(通称:モラハラ)とは、言葉や態度による精神的な暴力のことです。身体的な暴力と違い、外からは見えにくいため、被害者自身も「これはモラハラなのか」と判断に迷うことが少なくありません。
モラハラ配偶者には以下のような特徴があります。
特に注意すべき点として、モラハラ配偶者は「暴力も振るっていないし浮気もしていない」と主張することが多く、自分に非があることを認めない傾向があります。また、家族のためと称して「休日は必ず家族で過ごす」「夕食には必ずお刺身をつける」などの理不尽なルールを課すこともあります。
これらの特徴に心当たりがある場合、あなたはモラハラ被害を受けている可能性があります。
モラハラを理由に離婚を進める場合、証拠の収集が非常に重要です。モラハラは目に見える傷跡が残らないため、「言った・言わない」の水掛け論になりやすいからです。
効果的な証拠収集方法には以下のようなものがあります。
特に効果的なのは、モラハラの具体的なエピソードを時系列で記録することです。「〇月〇日、夕食の際、お刺身がないことを理由に30分間怒鳴り続けた」といった具体的な事実を積み重ねることで、モラハラの実態を客観的に示すことができます。
証拠は離婚調停や裁判だけでなく、慰謝料請求の際にも重要な役割を果たします。日頃から意識して記録を取っておくことをおすすめします。
モラハラ配偶者との離婚を考える場合、まず別居することが重要なステップとなります。別居には以下のようなメリットがあります。
別居のタイミングとしては、以下の点を考慮するとよいでしょう。
別居の方法としては、実家に戻る、賃貸物件を借りる、シェルターを利用するなどの選択肢があります。特に子どもを連れての別居は「連れ去り」と主張される可能性もあるため、弁護士に相談した上で進めることをおすすめします。
別居後は、モラハラ配偶者から連絡が来ても直接対応せず、弁護士などの第三者を通じてやり取りするようにしましょう。モラハラ配偶者は「謝罪」や「改心」を装って被害者を呼び戻そうとすることがありますが、一時的な変化に惑わされないことが大切です。
モラハラ配偶者が離婚に応じない場合、離婚調停を申し立てることになります。調停では以下のポイントを押さえておくことが重要です。
調停前の準備
調停での対応
モラハラ配偶者は調停の場でも「自分は悪くない」「妻(夫)こそがモラハラだ」と主張することが多いです。また、調停委員の説得にも耳を貸さないケースが少なくありません。そのため、調停が不成立となり、離婚訴訟に移行することも視野に入れておく必要があります。
調停では、モラハラの詳細を具体的に説明することが重要です。「いつも怒鳴られる」といった抽象的な表現ではなく、「〇月〇日、〇〇という理由で△△と怒鳴られた」という具体的な事実を積み重ねることで、モラハラの実態を伝えることができます。
モラハラ配偶者との離婚が成立した後も、心の傷が完全に癒えるまでには時間がかかります。モラハラ被害者は長期間にわたる精神的虐待により、自己肯定感の低下やPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむことがあります。
離婚後の心の回復プロセスには以下のようなステップがあります。
特に重要なのは、「モラハラは被害者の責任ではない」という認識を持つことです。モラハラ配偶者は「あなたが悪いから怒るんだ」と被害者に責任転嫁することが多いため、離婚後もその呪縛から解放されるのに時間がかかることがあります。
専門家によるカウンセリングや、同じような経験をした人々との交流は、心の回復に大きな助けとなります。一人で抱え込まず、適切なサポートを受けながら回復のプロセスを進めていくことが大切です。
厚生労働省のDV相談窓口一覧(モラハラ被害者も利用可能)
モラハラからの回復には個人差があり、数ヶ月で立ち直る人もいれば、数年かかる人もいます。焦らず、自分のペースで回復していくことが重要です。
モラハラを理由に離婚する場合、慰謝料を請求できる可能性があります。モラハラは民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があるためです。
慰謝料請求の際のポイントは以下の通りです。
慰謝料請求の条件
慰謝料の相場
モラハラによる慰謝料の相場は一般的に100万円〜300万円程度とされていますが、以下の要素によって変動します。
慰謝料請求を成功させるためには、前述した証拠収集が非常に重要です。特に、モラハラによって精神的苦痛を受けたことを示す診断書や、具体的なモラハラ行為の記録が有効となります。
ただし、モラハラ配偶者は慰謝料請求に応じないケースが多いため、調停や裁判を通じて請求することになるでしょう。その際には弁護士に依頼することで、適切な金額の慰謝料を請求できる可能性が高まります。
モラハラを理由に離婚する場合の法的手続きの流れは以下の通りです。
モラハラ配偶者との離婚では、協議離婚が難しいケースが多いため、調停や訴訟に移行することが一般的です。特に訴訟では、モラハラの証拠を提示し、婚姻関係が破綻していることを立証する必要があります。
訴訟では、モラハラエピソードのうち「特にひどい」と感じたものを具体的に記述した訴状を提出することが効果的です。モラハラ配偶者は細かな事実関係に拘った反論をしたり、「自分もこういうことをされた」と主張したりすることが多いですが、明確な証拠があれば有利に進められます。
法的手続きには時間とコストがかかりますが、専門家のサポートを受けながら粘り強く進めることで、モラハラ配偶者との関係を法的に終わらせることができます。
モラハラ配偶者との離婚では、子どもがいる場合の親権問題が大きな課題となります。モラハラ環境は子どもの心身の発達にも悪影響を及ぼすため、慎重な対応が必要です。
親権獲得のポイント
モラハラ配偶者は「妻と子供をとても大切に思っている」「家族一緒に暮らしたい」と主張することが多いですが、実際の行動(生活費を支払わないなど)と矛盾していることも少なくありません。このような矛盾点を指摘することも、親権獲得には有効です。
また、子どもを連れての別居は「連れ去り」と主張される可能性があるため、以下の点に注意が必要です。
子どもがモラハラの目撃者となっている場合、子ども自身も心理的なケアが必要になることがあります。専門家によるカウンセリングなど、適切なサポートを検討しましょう。
モラハラ配偶者との離婚では、弁護士のサポートが非常に重要です。弁護士は以下のような役割を果たします。
モラハラ離婚に強い弁護士を選ぶポイントは以下の通りです。
初回相談は無料の弁護士事務所も多いので、複数の弁護士に相談して相性の良い弁護士を見つけることをおすすめします。また、モラハラ被害者の支援団体や自治体の相談窓口から弁護士を紹介してもらうことも一つの方法です。
日本弁護士連合会のホームページ(弁護士検索システムあり)
弁護士費用は決して安くありませんが、モラハラ配偶者との離婚という複雑な問題を適切に解決するための投資と考えることが大切です。法テラスなどの法的支援制度も活用できる場合があります。
モラハラ配偶者との離婚を考える上で、経済的自立は大きな課題となります。特に、経済的DVを受けていた場合は、離婚後の生活に不安を感じるかもしれません。
経済的自立に向けた具体的なステップは以下の通りです。
モラハラ配偶者は「生活費を渡さない」「仕事を辞めさせる」などの経済的支配を行っていることも少なくありません。そのような状況から抜け出すためには、まず別居して安全な環境を確保し、その上で経済的自立に向けた準備を進めることが重要です。
また、離婚前でも婚姻費用の分担を請求できるため、別居後の生活が経済的に困難な場合は、弁護士に相談して婚姻費用分担調停を申し立てることも検討しましょう。
厚生労働省のひとり親家庭支援制度の案内
経済的自立は一朝一夕には実現しませんが、計画的に準備を進めることで、モラハラ配偶者に依存しない生活を築くことができます。