日本では現在、同性婚は法律上認められていません。しかし、近年の動きとして注目すべきは、「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)の進展です。2025年3月時点で、全国5か所の高等裁判所すべてで「違憲判決」が出そろい、法改正への期待が高まっています。
大阪高裁では「同性婚を許容してない現状は、個人の尊厳を著しく損なう不合理なもの」と断じ、パートナーシップ制度についても「同性カップルにのみ、婚姻とは別の制度を設けることは、新たな差別を生み出しかねない」と踏み込んだ判決となりました。
一方で、地方自治体レベルでは同性カップルを婚姻相当関係と認めるパートナーシップ制度条例の導入が進んでいます。2025年3月1日時点で、導入自治体数は500に迫り、人口カバー率も拡大しています。
しかし、これらのパートナーシップ制度は法的な婚姻と同等の権利を保障するものではなく、関係解消時(事実上の離婚時)の財産分与や慰謝料請求などについては、法的な保護が不十分な状態が続いています。
同性婚が法的に認められている国々のデータを見ると、興味深い統計が浮かび上がってきます。特に注目すべきは、女性同士のカップル(レズビアンカップル)の離婚率が、男性同士や異性間のカップルと比較して約2倍という高さを示している点です。
イギリスの統計によれば、2019年には同性カップル間で822件の離婚が記録され、前年の約2倍となりました。そのうち、女性カップルの離婚が589件(約72%)、男性カップルが233件(約28%)となっています。この女性カップルの離婚率が男性カップルの約2倍という傾向は継続しているとされています。
この現象について、いくつかの仮説が提示されています。
これらの統計は、同性婚の離婚問題を考える上で重要な視点を提供しています。しかし、これらの数字を単純に「失敗」と捉えるのではなく、関係の一つの形態として理解することも重要です。
同性カップルが離婚(関係解消)する場合、財産分与が認められるかどうかは法的に重要な問題です。日本の現状では、同性婚が法律上認められていないため、民法上の財産分与の規定(民法768条)が直接適用されるわけではありません。
令和4年2月14日の横浜家庭裁判所の判決では、「日本の法律は婚姻および離婚の当事者を『夫婦』または『父母』と規定するなど異性間でのみ認めていることは明らか」であるとし、同性婚は婚姻の実質的要件を欠くと判断しました。さらに「婚姻の実質的要件を欠く場合にまで内縁の夫婦関係と認め、婚姻に関する規定を適用するのは現行の法律の解釈上困難」として、同性カップルの財産分与請求を認めませんでした。
しかし、この問題に対処する方法として、事前に公正証書を作成しておくという選択肢があります。東京都渋谷区のパートナーシップ制度では、事実婚公正証書の作成を条件としており、その中で離婚時の財産分与条項を入れておくことで、関係解消の際の財産分与が認められる可能性が高まります。
このように、現状では法的保護が不十分な中で、当事者自身が法的な備えをしておくことが重要となっています。
同性カップルの関係において、一方が他の同性と不倫関係を持った場合、慰謝料請求は可能なのでしょうか。この点については、近年の裁判例が参考になります。
宇都宮地裁真岡支部の2019年9月18日の判決では、米国で結婚して日本国内で同居していた同性カップルの30代女性が、「パートナーの不貞行為で破局した」として相手の女性らに約640万円の損害賠償を求めた訴訟において、「実態があれば、内縁関係に準じた法的保護が受けられる」との判断を示し、不貞行為をした相手に慰謝料など110万円の支払いを命じました。これは同性カップルにも内縁関係に準じた法的保護を認めた初の判決とみられています。
この判決は、同性カップルの事実婚であっても、婚姻に準じるという考え方に基づき、パートナー同士には相互に貞操義務が課せられるという解釈を示したものです。つまり、他の同性と不倫関係になれば、貞操義務違反の不法行為となり、不倫された側は精神的苦痛に対する慰謝料を請求できるという道筋を示しました。
この判例は、法律上の婚姻関係がなくても、実質的な婚姻関係(事実婚)と認められれば法的保護が及ぶという重要な先例となっています。ただし、個々のケースによって判断が異なる可能性があるため、専門家への相談が推奨されます。
同性カップルの離婚(関係解消)は、法的な問題だけでなく、心理的・社会的な側面も持ち合わせています。異性間の離婚と比較して、同性カップルの離婚には独自の課題があります。
まず、社会的認知の問題があります。同性婚自体がまだ社会的に十分に認知されていない中で、その離婚についても理解が進んでいないケースが多いです。そのため、周囲からの適切なサポートを得られにくい状況があります。
また、LGBTコミュニティ内での関係性の問題もあります。特に小さなコミュニティでは、離婚後も元パートナーと同じコミュニティ内で生活を続けなければならないケースも少なくありません。これは心理的な負担となる可能性があります。
さらに、子どもがいる場合の問題も重要です。法的な親子関係が認められていないケースでは、離婚後の親権や面会交流などについて法的な保護が不十分であり、当事者間の話し合いに委ねられることが多くなります。
これらの課題に対応するためには、以下のようなサポート体制が重要です。
同性婚の離婚問題は、単に法制度の問題だけでなく、社会全体の理解と支援体制の構築が求められる課題と言えるでしょう。
同性婚と離婚に関連して、性別変更に関わる特殊な法的問題も存在します。日本では「性同一性障害者特例法」により性別の変更が認められていますが、その要件の一つに「非婚要件」があります。これは、性別変更によって同性婚状態になることを防ぐためのものです。
具体的には、異性間で婚姻している場合、一方が性別変更をすると同性婚状態になるため、性別変更を希望する場合は離婚が必要となります。これは当事者にとって「離婚する」か「実態に合わない性別扱いのまま生きるか」という「過酷な二者択一」を迫るものとなっています。
2025年1月に報道された事例では、婚姻を続けたまま性別変更を希望する当事者が「結婚、離婚は当事者が決める事で、国に指図されて離婚するのはおかしいのでは」と訴えています。配偶者も「離婚が互いの幸せになる道かといえば、そうではない。離婚の選択を迫られるのはものすごく苦痛」と語っています。
この問題は、同性婚が法的に認められていない日本の現状と、性別変更を希望する人々の権利との間の矛盾を浮き彫りにしています。同性婚が法的に認められれば、この問題は解消される可能性がありますが、現状では当事者に大きな負担を強いる状況が続いています。
この問題は、同性婚と離婚の問題を考える上で、性的マイノリティの多様な状況を包括的に理解することの重要性を示しています。
以上のように、同性婚の離婚問題は法的、社会的、心理的に多くの課題を抱えています。しかし、近年の裁判例や社会の変化により、少しずつ解決の道筋が見えてきているとも言えるでしょう。当事者にとっては、現状の法制度の中で最大限の法的保護を受けるための知識と準備が重要となります。
同性婚の法制化が進む中で、離婚に関する法的枠組みも整備されていくことが期待されます。そのためには、当事者の声に耳を傾け、多様な家族のあり方を尊重する社会の実現が不可欠です。