ドメスティックバイオレンスと離婚で別居から慰謝料請求まで

ドメスティックバイオレンスを受けている方が離婚を考える際の手順や注意点を解説します。証拠収集の方法から別居の進め方、法的手続きまで詳しく説明していますが、あなたはどのような対策を取るべきでしょうか?

ドメスティックバイオレンスと離婚の手続き

DVから身を守るための3つのステップ
🛡️
証拠を集める

診断書、写真、録音など客観的な証拠を安全に収集しましょう

🏠
安全な別居

計画的に別居し、住所を秘匿して身の安全を確保しましょう

⚖️
法的手続き

離婚調停や裁判を通じて、正当な権利を主張しましょう

ドメスティックバイオレンスの種類と離婚事由としての重大性

ドメスティックバイオレンス(DV)は、配偶者や恋人など親密な関係にある人から振るわれる暴力を指します。DVには様々な形態があり、それぞれが離婚事由として認められる可能性があります。

 

主なDVの種類は以下の通りです。

  • 身体的暴力:殴る、蹴る、物を投げつけるなど直接的な暴力行為
  • 精神的暴力:暴言、脅し、無視、行動の制限など精神的な苦痛を与える行為
  • 経済的暴力:生活費を渡さない、働くことを禁止するなど経済的に支配する行為
  • 性的暴力:同意のない性的行為を強要するなどの行為

民法770条では、離婚原因として「婚姻を継続し難い重大な事由」が規定されており、DVはこれに該当します。DVの程度や頻度によっては、一度の行為でも離婚が認められるケースもあります。

 

DVは決して許されるものではなく、被害者の心身に深刻なダメージを与えます。自分がDV被害者であることに気づかない場合もありますが、恐怖や不安を感じる関係性は健全とは言えません。

 

ドメスティックバイオレンスの証拠収集と別居の準備方法

DVを理由に離婚するためには、客観的な証拠を集めることが非常に重要です。証拠がなければ「そんな事実はなかった」と言い逃れされる可能性があります。

 

効果的な証拠収集の方法

  1. 医師の診断書:暴力によるケガを受診した際に取得(日付、怪我の状態、原因を記載してもらう)
  2. 写真や動画:怪我の状態、壊された物、荒れた部屋の様子など
  3. 音声記録:暴力や暴言の様子(録音は相手に気づかれないよう注意)
  4. 日記やメモ:DVの内容、日時、状況を詳細に記録
  5. 相談記録:警察や配偶者暴力相談支援センターへの相談履歴
  6. メッセージ:謝罪や脅迫のLINEやメールなど

証拠は別居後に集めることが難しくなるため、同居中に安全に収集することが大切です。ただし、相手に証拠集めが発覚すると危険が増す可能性があるため、細心の注意が必要です。

 

安全な別居のための準備

  1. 別居先の確保:親族宅、友人宅、シェルター、賃貸物件など
  2. 必要書類の準備:身分証明書、通帳、印鑑、保険証など重要書類
  3. 生活費の確保:別居後の生活資金の準備
  4. 子どもがいる場合:学校や保育園への連絡、子どもの必要品の準備
  5. 別居のタイミング:相手が不在の時や、第三者の立ち会いのもとで

別居する際は、相手に知られないよう慎重に行動し、新しい住所を知られないよう注意しましょう。

 

DV夫から逃げるための別居|進め方と注意点

ドメスティックバイオレンスによる離婚調停と裁判の進め方

DV被害者が安全に離婚するためには、適切な法的手続きを踏むことが重要です。

 

離婚調停の申立て

  1. 調停の申立て:住所地または相手の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出
  2. 住所の秘匿:DV被害者は住所を秘匿して調停を申し立てることが可能
  3. 事情説明書の提出:DVの事実を記載した事情説明書を提出
  4. 家庭裁判所の配慮
    • 待機場所の分離
    • 出入りの時間をずらす
    • 調停委員が各自の待機室に話を聞きに来る

調停では、DVの事実や証拠に基づいて、離婚条件(慰謝料親権財産分与など)について話し合います。相手がDVを認めず離婚に応じない場合は、調停不成立となります。

 

離婚裁判の提起
調停が不成立の場合、離婚裁判を提起することになります。

 

  1. 訴状の提出:「婚姻を継続し難い重大な事由」としてDVの事実を主張
  2. 証拠の提出:収集した証拠を裁判所に提出
  3. 尋問:裁判所での証言(事前に弁護士と準備が必要)
  4. 判決または和解:裁判所の判断または和解による離婚成立

裁判では証拠が重要視されるため、客観的な証拠がなければDVの事実が認められない可能性があります。弁護士のサポートを受けることで、より効果的に手続きを進められます。

 

暴力・DVを理由とする離婚手続の詳細

ドメスティックバイオレンス被害者の慰謝料請求と財産分与の権利

DV被害者は、離婚に際して適切な経済的補償を受ける権利があります。

 

慰謝料請求
DVを理由とする離婚では、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。慰謝料の金額は以下の要素によって変動します。

  • DVの種類と程度
  • 継続期間
  • 証拠の質と量
  • 被害者の心身への影響

一般的なDVによる慰謝料の相場は100万円〜300万円程度ですが、重度のケースではそれ以上になることもあります。

 

財産分与
婚姻期間中に形成された財産は、原則として平等に分ける権利があります。

  • 不動産(自宅など)
  • 預貯金
  • 株式・投資信託
  • 退職金(按分)
  • 保険の解約返戻金

DVがあった場合でも、財産分与の割合が直接影響を受けることは少ないですが、隠し財産がある場合は弁護士のサポートを受けて調査することが重要です。

 

婚姻費用と養育費
別居中は婚姻費用、離婚後は子どもがいる場合は養育費を請求できます。

  • 婚姻費用:別居中の生活費(収入に応じた金額)
  • 養育費:子どもの成長に必要な費用(年齢や収入に応じた金額)

DV加害者が支払いを拒否する場合は、調停や審判を通じて法的に請求することができます。

 

ドメスティックバイオレンスからの心理的回復と新生活の構築

DVからの離婚は法的手続きだけでなく、心理的な回復と新生活の構築も重要な課題です。

 

心理的回復のプロセス
DVの被害者は、PTSDや抑うつ、不安障害などの心理的影響を受けていることが少なくありません。回復のためには。

  1. 専門家のサポート:心理カウンセラーや精神科医による治療
  2. 自助グループへの参加:同じ経験を持つ人との交流
  3. 自己肯定感の回復:自分を責めない、自分の価値を再認識する
  4. 段階的な社会復帰:少しずつ社会との関わりを取り戻す

回復には個人差があり、時間がかかることを理解しましょう。焦らず自分のペースで進めることが大切です。

 

新生活の構築

  1. 安全な住環境の確保:加害者に居所を知られないための対策
  2. 経済的自立:就労支援や公的支援の活用
  3. 子どもの心のケア:子どもも心理的影響を受けている可能性がある
  4. 新しい人間関係の構築:健全な人間関係を少しずつ築いていく
  5. 法的保護の継続:必要に応じて保護命令の延長や更新

公的支援制度の活用も検討しましょう。

  • 児童扶養手当
  • 母子父子寡婦福祉資金貸付金
  • 住宅支援(公営住宅の優先入居など)
  • ひとり親家庭医療費助成
  • 生活保護

DVからの回復と新生活の構築は、一人で抱え込まず、専門家や支援団体のサポートを受けながら進めることが重要です。時間をかけて少しずつ前に進んでいきましょう。

 

厚生労働省:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律

ドメスティックバイオレンスと子どもの親権・面会交流の問題

DVが存在する家庭では、子どもの親権や面会交流について特別な配慮が必要です。

 

親権の決定要素
DVがある場合、子どもの安全と福祉を最優先に親権が決定されます。

  1. 子どもの安全:DVを目撃した子どもは心理的影響を受けている
  2. 養育能力:安定した生活環境を提供できるか
  3. 子どもの意思:年齢によっては子どもの意見も考慮される
  4. 継続性の原則:別居後の主な養育者が優先されることが多い

DVの証拠が十分にある場合、被害者が親権を獲得できる可能性は高くなります。子どもを連れて別居する場合は、「子の連れ去り」と主張されないよう、事前に法的アドバイスを受けることが重要です。

 

面会交流の取り決め
DVがあった場合の面会交流は慎重に検討する必要があります。

  • 間接的な面会交流:手紙やビデオ通話など直接会わない方法
  • 第三者の立会い:支援センターや専門家の立会いのもとでの面会
  • 面会場所の制限:安全が確保された特定の場所のみでの面会
  • 面会の一時停止:子どもの心理状態によっては一時的に停止

子どもの安全と心理的影響を最優先に考え、必要に応じて専門家(児童心理士など)の意見を取り入れることが重要です。

 

子どもへの心理的影響
DVを目撃した子どもは様々な影響を受ける可能性があります。

  • トラウマ症状
  • 情緒不安定
  • 学習障害
  • 対人関係の問題
  • 暴力の連鎖リスク

子どもの心のケアは専門家に相談し、適切なサポートを受けることが大切です。子どもの年齢や状況に応じた説明と、安心感を与える環境づくりを心がけましょう。

 

裁判所:面会交流について
子どもの最善の利益を考慮した親権・面会交流の取り決めは、弁護士や家庭裁判所の調停委員、児童心理の専門家などの助言を得ながら進めることが望ましいでしょう。